お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
薄暗い甲板下の娯楽室で、古びた丸いテーブルを囲みながら、かすみたいなカードで必死に虚勢を張っているのが見え見えのオスカー達相手では、賭け事で負けを知らないカルヴァドスの相手になるはずもなく、既に向こう二ヵ月分の賃金の半分を担保に入れている弱者相手の賭ポーカーも、生温い麦酒も、何もかもがカルヴァドスには気怠くて、退屈だった。
「ああ、もうやめだ!」
上に上がり甲板から港を見下ろしながら、風に当たりたい気分になったカルヴァドスは手持ちのカードをテーブルの上に放り出した。
いつもなら、デロスの港につけば我先にと陸に上がるのがカルヴァドスのお約束だったが、今回に限って言えば、毎夕の姫巫女の祈りもここしばらく中止になっていると聞くだけで高揚していた気持ちは一転意気消沈に変わった。
何しろ、どんなに急ぎの航海でも必ずカルヴァドスがデロスに寄るのは、遠くからとは言え、憧れの姫巫女の姿を見ることができるからだ。そして、更に言うなら、お酒も料理もおいしく、町の人は皆マナーがよく、余所者のクルーにも親切にしてくれる。商売の為に、良い顔をして見せる人間はどこの港にもいるが、デロスは海の女神の神殿をイエロス・トポスの民が築くために移り住んだと言うだけあって、どことなく上品だし、教育が行き届いていることもあり、文字の読めない民は余所者だけだ。そして、デロスをどこよりも特別にさせているのは、イエロス・トポスの民の血を引くデロスの民の南国の島の民とは思えない色の白さと、整った顔立ちだった。更に言うなら、姫巫女の姿は神々しく、カルヴァドスにとっては女神その者だった。
だから、カルヴァドスは姫巫女は一生独身なんだと信じて疑いもしなかったので、三年程前に姫が降嫁する予定だと聞いたときは、姫巫女が結婚できると一喜一憂したものの、幾ら手狭な王宮とはいえ、一般人のカルヴァドスが夜這いをかけられるような場所ではなかった。そして、二年半前に姫巫女が婚約したと聞いたときは、この世の終わりのような気がしたし、本気で婚約者に殺意を抱いてしばらくの間、行動を監視して人となりを見てやるとばかりに、予定を大幅に変更してデロスに滞在し、かなりしつこく婚約者のことを監視したが、相手はとても真面目な好青年で、仲間から『いい加減に諦めたらどうですか?』と言われ、しぶしぶデロスを後にしたくらいだった。
それでも、デロスがカルヴァドスのお気に入りの港であることに変わりはなかったし、他のクルーが呆れるほどに、毎回カルヴァドスは陸に上がれば毎日、姫巫女の祈りを遠くから見守った。太陽の光に輝く姫巫女のストロベリーブロンドの髪、付き従う白銀の狼と赤毛の大型犬の姿を見る度、自分の結婚相手があの姫だったら家出もしなかったのにと、思ったりするのだった。
「ああ、もうやめだ!」
上に上がり甲板から港を見下ろしながら、風に当たりたい気分になったカルヴァドスは手持ちのカードをテーブルの上に放り出した。
いつもなら、デロスの港につけば我先にと陸に上がるのがカルヴァドスのお約束だったが、今回に限って言えば、毎夕の姫巫女の祈りもここしばらく中止になっていると聞くだけで高揚していた気持ちは一転意気消沈に変わった。
何しろ、どんなに急ぎの航海でも必ずカルヴァドスがデロスに寄るのは、遠くからとは言え、憧れの姫巫女の姿を見ることができるからだ。そして、更に言うなら、お酒も料理もおいしく、町の人は皆マナーがよく、余所者のクルーにも親切にしてくれる。商売の為に、良い顔をして見せる人間はどこの港にもいるが、デロスは海の女神の神殿をイエロス・トポスの民が築くために移り住んだと言うだけあって、どことなく上品だし、教育が行き届いていることもあり、文字の読めない民は余所者だけだ。そして、デロスをどこよりも特別にさせているのは、イエロス・トポスの民の血を引くデロスの民の南国の島の民とは思えない色の白さと、整った顔立ちだった。更に言うなら、姫巫女の姿は神々しく、カルヴァドスにとっては女神その者だった。
だから、カルヴァドスは姫巫女は一生独身なんだと信じて疑いもしなかったので、三年程前に姫が降嫁する予定だと聞いたときは、姫巫女が結婚できると一喜一憂したものの、幾ら手狭な王宮とはいえ、一般人のカルヴァドスが夜這いをかけられるような場所ではなかった。そして、二年半前に姫巫女が婚約したと聞いたときは、この世の終わりのような気がしたし、本気で婚約者に殺意を抱いてしばらくの間、行動を監視して人となりを見てやるとばかりに、予定を大幅に変更してデロスに滞在し、かなりしつこく婚約者のことを監視したが、相手はとても真面目な好青年で、仲間から『いい加減に諦めたらどうですか?』と言われ、しぶしぶデロスを後にしたくらいだった。
それでも、デロスがカルヴァドスのお気に入りの港であることに変わりはなかったし、他のクルーが呆れるほどに、毎回カルヴァドスは陸に上がれば毎日、姫巫女の祈りを遠くから見守った。太陽の光に輝く姫巫女のストロベリーブロンドの髪、付き従う白銀の狼と赤毛の大型犬の姿を見る度、自分の結婚相手があの姫だったら家出もしなかったのにと、思ったりするのだった。