お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
 特に年に一度の海の女神の祭典では、姫巫女が特別な祈りを捧げる事もあり、船乗りはこぞってデロスに入港して海の女神の恩寵にあずかろうとするので、港は貨物船用の桟橋だけでなく、祭典を見に来る観光客を乗せた客船でも溢れかえるお祭り騒ぎで、国家元首の御用達やクーリエ便などの特別な資格を持っている船だけで船着き場はいっぱいになり、普通の貨物船は荷物の積み下ろしの時だけ、特別に設けられた繋留場所に停泊できるが、それ以外は沖に船を停泊して、小舟で乗り付け無くてはならなくなる。この時ばかりは、国全体が観光収益に重点を置いていることもあるのだろうが、祭典の日は漁に出ることのできない漁船が、沖に係留している船との渡し舟替わりをしてくれるようになる。もちろん、無料ではないが、飲酒しては船まで漕いで戻れないという船頭泣かせが解消されるので、沖に係留している船乗りたちは喜んでチップ程度の渡し賃を支払って上陸した。
 本当ならば、もうすぐ海の女神の祭典がある季節だったが、パレマキリアの侵攻により、今年は祭典が行われないことは既にほとんどの船乗りが知っていた。それもあり、いつもならばデロスに船が集まってくる季節だというのに、パレマキリアが湾岸部にも海軍を展開していることもあり、用のない船はデロスを敬遠して通り過ぎるらしく、港の桟橋はがら空きで、いつもはデロスに寄らないような、船乗りなのか人買いの奴隷船なのか区別がつかないような、見るからに怪しいパレマキリア船籍のガラの悪い連中が港を占領していた。
陸に上がったカルヴァドスは、パレマキリアの連中の横暴ぶりと無法ぶりに苛立ち、結局、すぐに船に戻ってきてしまったのだった。
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