お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!

(・・・・・・・・やっぱり、もっとお金のことをローズとフレドに教えてもらってくるんだっわ。情報が銅貨三枚でワインが銀貨一枚って、このままじゃ、タリアレーナにつく前に、お金足りなくなっちゃうんじゃないかしら? こういうのを世間知らずっていうのよね。でも、年に何度もお忍びで町の様子は見に降りていたし、買い物だってちゃんとしたことあるし・・・・・・。そうか、お金を払っていたのはローズかフレドで私じゃなかったわ。値段は見たけれど、ああ、やっぱり駄目ね・・・・・・・・)

 グラスを片手に奥へと進み、船長に挨拶する前にと、景気付けにグラスのワインを煽ると、それは赤ワインではなく、クランベリージュースだった。

(・・・・・・・・えっ? クランベリージュースに銀貨一枚? 絶対に詐欺よ! 私がお酒も飲めない子供だと思っているのね・・・・・・・・)

 アイリーンは腹立たしく思いながら、船長に声をかけた。
「あの、すいません。貨物船の船長さんだと伺ったのですが・・・・・・」
 アイリーンが声をかけると、男はとろんとした目でアイリーンを見つめた。
「おや、ここは童話の世界か? 親指姫がいるじゃないか!」
 アイリーンは目を瞬きながら、船長に話しかけた。
「どちらへ向かわれる貨物船の船長さんでいらっしゃいますか?」
「うん? まだ天国に行く予定はないが、ここは天国か? それとも、お嬢ちゃんは海の女神のお使いかい?」
「どちらも違います。あの、船長さんですよね?」
 アイリーンは少し声のトーンを強めた。
「うん? 深酒のしすぎか? どうも、幻覚と幻聴がするぞ!」
 船長は言うと、カバのようなという表現しか思い付かないような豪快な笑い声を上げた。
「これは夢ではありません。私は東に向かう貨物船を探してるんです」
「ほぉ? 東には何があるんだ? 黄金の都でも有るのか? そういや、マルクル何とかって奴が、東の果てに黄金の国があるとかって話を書いたのを読んだことがあるぞ」
 船長はお酒臭い息を吐きながら、自慢そうに言った。
「その本は知っていますが、本当にそんな国があるかは知りません。船長さんの船は東に向かわれるのですか? それとも、西に? まず、それを教えていただけませんか?」
 必死に問いかけるアイリーンを船長は太い腕でガッシリと抱きしめた。
「あの、船長さん!」
「親指姫、俺達は東から来たんだ。西に運ぶ荷物を運び終わるまでは、東にはもどらねぇ。その意味、分かるよなぁ?」
「つまり、西に向かわれるんですね。分かりました。私は、東に行く船を探しているので、放していただけますか?」
 船長の腕から逃げようともがくアイリーンの首元に船長が髭面を近づけた。
「良い香りがするじゃないか、親指姫。東に行かねぇとは言っちゃいないぜ。まず、西に荷物を運んで、その後なら東に行く。それは間違いない」
「あの、急いでいるので、西に行ってからでは困るのです」
 体を動かそうにも、逞しい二本の腕にガッチリと抑え込まれ、アイリーンは呼吸をするのも苦しいほどだった。
「そうつれないことを言うなよ。親指姫。なぁ、今晩、俺につき合うなら、船に乗せてやっても良いぜ」
 船長は、今にもアイリーンの頬にキスしそうに顔を近づけた。
「放して下さい。私は東に行く船を探しているんです」
 アイリーンは抵抗したが、船長の腕は太く、アイリーンの腰を捕らえている腕にさらに力が込められた。
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