お転婆姫は命がけ。兄を訪ねて三千里!
王宮の奥深くで獣のような声を上げて、全身の痛みと痒みに苦しんでいる王太子の役は、アイリーンが真の海の女神の巫女であると神の信託が下りたことの証明にと、イエロス・トポスから贈られた神の守り手と呼ばれる銀色の狼、ラフカディオが、夜な夜な幼なじみの赤毛のチャウチャウ犬、アイゼンハイムと遊んでは叫び声を上げて居るのだが、幾重にも大理石で覆われた部屋の中で響く二匹の声は、まるで狼男がもだえ苦しむようなおどろおどろしい声に聞こえ、王宮に勤める使用人達は皆恐れをなして最奥の宮のドームにだけは近付かないようになっていた。
書類を片手に食事を済ませたアイリーンは、冷え切ったお茶を飲み干すと、今夜も悶え苦しむ兄役をこなしている二人ならぬ、二頭を迎えに王宮の奥へと向かった。
王宮というと、さぞや護衛がうろうろとしてプライバシーが無い場所というイメージを持たれがちだが、ここデロス王宮は全く違う。実際、小さなデロス島しか領土を持たないデロス王家の王宮は建物こそしっかりとしているが、警備は中抜きで外堀を埋めているだけに近い。なので、こうして王宮深くの元々は使われていなかった物置に近いドームにアイリーンが向かっても、すれ違う侍女一人いない。
ドームに近づくと、中で暴れる二匹の走り回り、飛び跳ねる音が聞こえた。
アイリーンには、今日も派手に遊び回っているなという音だが、たまたま物置に用があって足を運んだ使用人たちには、王太子が苦しみ悶え、暴れている音に聞こえるというのだから、思い込みというものは恐ろしい。
アイリーンの足音が床の大理石を通して響くのが聞こえたのか、ドーム前五メートルほどの所まで行くと中から音が聞こえなくなった。
そして、アイリーンがドームの扉を開けると、左にラフカディオ、右にアイゼンハイムが座ってアイリーンを待っていた。
「ラフディー、アイジー、ご苦労様。あれだけ叫べば、もう今日は十分よ。さあ部屋で休みましょう」
アイリーンが言うと、二頭は先を争うようにアイリーンにハグを求め、ギュッと抱きしめられた二頭は、満足そうにアイリーンの左右にピッタリと護衛のごとく並んで歩き、アイリーンの私室へと戻った。
書類を片手に食事を済ませたアイリーンは、冷え切ったお茶を飲み干すと、今夜も悶え苦しむ兄役をこなしている二人ならぬ、二頭を迎えに王宮の奥へと向かった。
王宮というと、さぞや護衛がうろうろとしてプライバシーが無い場所というイメージを持たれがちだが、ここデロス王宮は全く違う。実際、小さなデロス島しか領土を持たないデロス王家の王宮は建物こそしっかりとしているが、警備は中抜きで外堀を埋めているだけに近い。なので、こうして王宮深くの元々は使われていなかった物置に近いドームにアイリーンが向かっても、すれ違う侍女一人いない。
ドームに近づくと、中で暴れる二匹の走り回り、飛び跳ねる音が聞こえた。
アイリーンには、今日も派手に遊び回っているなという音だが、たまたま物置に用があって足を運んだ使用人たちには、王太子が苦しみ悶え、暴れている音に聞こえるというのだから、思い込みというものは恐ろしい。
アイリーンの足音が床の大理石を通して響くのが聞こえたのか、ドーム前五メートルほどの所まで行くと中から音が聞こえなくなった。
そして、アイリーンがドームの扉を開けると、左にラフカディオ、右にアイゼンハイムが座ってアイリーンを待っていた。
「ラフディー、アイジー、ご苦労様。あれだけ叫べば、もう今日は十分よ。さあ部屋で休みましょう」
アイリーンが言うと、二頭は先を争うようにアイリーンにハグを求め、ギュッと抱きしめられた二頭は、満足そうにアイリーンの左右にピッタリと護衛のごとく並んで歩き、アイリーンの私室へと戻った。