水の中の箱庭
いつも弟たちにするように藍はミヒカ姫の頭を撫でていく。ミヒカ姫は「どうしたの?」とくすぐったそうに笑った。

「ミヒカ姫、寂しそうな顔をしていたから。大丈夫ですよ。また絶対来ますから」

「……約束だからね?」

ミヒカ姫に抱き締められ、しばらくの間互いの温もりを感じていた。藍は弟たちを可愛がっている時を思い出し、微笑む。ミヒカ姫は頬を赤く染め、唇を震わせていた。



季節は巡っていく。あっという間に一年が過ぎ、藍は十四歳になった。背も去年より伸び、また一歩大人に近付いたものの、弟たちの面倒を見る優しいお兄ちゃんであることは変わらない。

「ミヒカ姫、また来ますね」

「待っているわ。またね、藍」

ミヒカ姫に手を振り、藍は湖から離れて家へと走る。夏の風はどこかぬるく、日はゆっくりと傾いてもうじき沈むというのにまだ蒸し暑い。少し歩くだけで汗が噴き出してくる。

「あっつ〜……」

手でパタパタと仰いで風を送る。ないよりはマシだろうと思ったからだ。
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