愛を知るまでは★番外編★
イチゴキャンディ編 弘毅side
美也子さん ~8月16日~
美也子がつぐみを通して俺に送りつけてきたものは、ミスチルのライブチケットだった。
日時は8月16日土曜日。
その日は野球サークルの先輩、板垣五郎の誕生日パーティに誘われていた。
もちろん予定がなくても、そのライブに行くつもりなどさらさらなかった。
五郎先輩は俺や信二に大学生活を送るための様々な情報を教えてくれたり、いきつけの酒場を紹介してくれた頼れる先輩だ。
また派手なことが好きで、今日も大人数を集めて、信二がバイトをしているカフェ「ラバーソウル」を貸し切りにし、その会の主役として堂々と振舞っている。
信二は場を盛り上げるために、しきりに五郎先輩の武勇伝を大きな声で数人の仲間に話している。俺はそんな仲間の輪から少し離れたテーブルで、ひとりウイスキーのロックが入ったグラスを勢いよく飲み干していった。
ウイスキーのほろ苦さと熱く痺れるような味が、喉を通り内臓を焼いていく。
美也子からの誘いを無視する罪悪感を消すために。
つぐみから拒絶された現実を忘れるために。
その全てをほんの少しの間、消し去るように。
俺はそのパーティで酒を浴びるように飲んだ。
「おい、鹿内。なんだそのしけたツラは!」
野球サークルのチームメイトである桜庭という同学年の男が、ビールの入ったグラスを持って俺の横に立った。
「まるで失恋でもしたような顔しやがって。ま、モテ男のお前に限ってそんなことはないか!」
「・・・・・・。」
俺はこの軽薄な男が好きではなかった。
ハッキリ言えば嫌悪感を持っていた。
同じサークルじゃなければ、話などしたくない相手だ。
そこそこに甘いマスクをした桜庭は要領がよく、先輩には媚びへつらい、後輩には尊大な態度を隠さない。
合コンで知り合った女に次々と手を出し、常に二股三股は当たり前という噂がまことしやかに囁かれている。
なにかにつけて俺と張り合おうとするその態度も、うざかった。
「そういえば鹿内、女子高生の彼女がいるって聞いたけど、あれマジなの?」
「・・・・・・。」
「で。どうなの?もうヤッた?いまどきの女子高生って色っぽいよな。さすが鹿内、狙いどころが他のヤツと一味違うね~。」
黙れ。煩い子虫が寄ってきやがって。
そんな言葉でつぐみを汚すな。
「・・・うるせーな。ほっとけよ。」
「そうつれないこと言うなよ。俺にも女子高生、紹介してくれない?」
「お前に紹介する女なんていねえよ。」
「は?いつもそうやってスカしやがって。どうせ俺のこと見下してるんだろ?!」
見下すほど、お前のことなんか興味ねえんだよ。
そう口にしかけた時、俺と桜庭の間に信二が割り込んできた。
「どうしたの?お二人さん!仲良く飲もうぜ!ほら、桜庭、五郎先輩が呼んでたぞ。」
「・・・お、おう。」
桜庭はビールとグラスを持って五郎先輩のお酌をしに、俺の前からそそくさと去っていった。
「ありがとう、信二。助かったよ。」
こういうとき持つべきものは友達だ。
「桜庭はいつも絡み酒だから相手するの面倒なんだよな。・・・どうした、弘毅。顔色悪いぞ?今日は早めに切り上げたほうがいいんじゃないのか?」
「いや・・・。今日はとことん飲む。」
「なにかあったのか?」
信二の顔が心配そうに俺を見る。
「もしかして・・・つぐみか?」
「・・・・・・。」
「何年俺がお前を見てきたと思ってるんだよ。弘毅、お前、つぐみに惚れてんだろ?」
「信二・・・お前、いつから・・・」
「最近の弘毅見てればわかるよ。女嫌いのお前が、つぐみのことを話すときだけ、見たことのない柔らかい表情をするんだよ。自覚なかった?」
今まで上手く隠し通せていたと思っていたが、ここへきて俺のつぐみへの気持ちは、信二にバレてしまうくらい駄々洩れということか。
「・・・信二に隠し事は出来ねーな。」
俺は暗に信二の言葉を肯定した。
「俺、つぐみちゃんに嫌われたかも。」
「はははっ!らしくねーな!弘毅にそんな弱音を吐かせるなんて、つぐみもとんだ小悪魔に成長したもんだ。兄貴代わりの俺としては少し複雑だけどな。」
「・・・・・・。」
「大丈夫。つぐみは男に免疫がないから、突拍子のないことばかり言うんだ。以前つぐみが俺に『童貞ってなに?』って聞いてきたときはどう答えていいかまいったよ。」
「・・・なんて答えたんだ?」
「サクランボみたいな男のことだよって答えといた。」
「そのまんまじゃねーか。」
「でも納得してくれたぜ?ふーん。サクランボか~ってな。」
「・・・ふふっ。」
無邪気にそう答えるつぐみを想像して、つい顔がにやけてしまった。
「ほらほらその顔!その笑顔でつぐみと接してみたらいいんじゃねーの?
つぐみは人の笑顔が大好物だから。」
「・・・ああ。そうしてみるよ。」
そうして1次会、2次回、そしてサークル仲間の家で夜通し飲み明かした。
家に帰ったのは翌日の昼前。
飲み過ぎて胃酸が逆流し、俺はトイレで何度も吐いた。
つぐみから受けた拒絶のショックは、俺の体調の悪化を促進させた。
つぐみの言葉が頭の中でリフレインする。
『そうやって愛し愛されることから逃げて生きていくんですか?』
・・・なにが「愛」だ。
初恋もまだ知らないくせに。
『それって淋しくないですか?』
・・・淋しいに決まっている。
でもそれは愛を知らないからではなく、つぐみの心が俺に向かないことが淋しいんだ。
『私はいつになるかわからないけど、誰かを愛してみたい。』
・・・誰かって誰だよ。もう、俺でいいだろ?
つぐみ、「愛」なんて言葉に惑わされず、俺の言葉や行動を見てくれよ・・・。
日時は8月16日土曜日。
その日は野球サークルの先輩、板垣五郎の誕生日パーティに誘われていた。
もちろん予定がなくても、そのライブに行くつもりなどさらさらなかった。
五郎先輩は俺や信二に大学生活を送るための様々な情報を教えてくれたり、いきつけの酒場を紹介してくれた頼れる先輩だ。
また派手なことが好きで、今日も大人数を集めて、信二がバイトをしているカフェ「ラバーソウル」を貸し切りにし、その会の主役として堂々と振舞っている。
信二は場を盛り上げるために、しきりに五郎先輩の武勇伝を大きな声で数人の仲間に話している。俺はそんな仲間の輪から少し離れたテーブルで、ひとりウイスキーのロックが入ったグラスを勢いよく飲み干していった。
ウイスキーのほろ苦さと熱く痺れるような味が、喉を通り内臓を焼いていく。
美也子からの誘いを無視する罪悪感を消すために。
つぐみから拒絶された現実を忘れるために。
その全てをほんの少しの間、消し去るように。
俺はそのパーティで酒を浴びるように飲んだ。
「おい、鹿内。なんだそのしけたツラは!」
野球サークルのチームメイトである桜庭という同学年の男が、ビールの入ったグラスを持って俺の横に立った。
「まるで失恋でもしたような顔しやがって。ま、モテ男のお前に限ってそんなことはないか!」
「・・・・・・。」
俺はこの軽薄な男が好きではなかった。
ハッキリ言えば嫌悪感を持っていた。
同じサークルじゃなければ、話などしたくない相手だ。
そこそこに甘いマスクをした桜庭は要領がよく、先輩には媚びへつらい、後輩には尊大な態度を隠さない。
合コンで知り合った女に次々と手を出し、常に二股三股は当たり前という噂がまことしやかに囁かれている。
なにかにつけて俺と張り合おうとするその態度も、うざかった。
「そういえば鹿内、女子高生の彼女がいるって聞いたけど、あれマジなの?」
「・・・・・・。」
「で。どうなの?もうヤッた?いまどきの女子高生って色っぽいよな。さすが鹿内、狙いどころが他のヤツと一味違うね~。」
黙れ。煩い子虫が寄ってきやがって。
そんな言葉でつぐみを汚すな。
「・・・うるせーな。ほっとけよ。」
「そうつれないこと言うなよ。俺にも女子高生、紹介してくれない?」
「お前に紹介する女なんていねえよ。」
「は?いつもそうやってスカしやがって。どうせ俺のこと見下してるんだろ?!」
見下すほど、お前のことなんか興味ねえんだよ。
そう口にしかけた時、俺と桜庭の間に信二が割り込んできた。
「どうしたの?お二人さん!仲良く飲もうぜ!ほら、桜庭、五郎先輩が呼んでたぞ。」
「・・・お、おう。」
桜庭はビールとグラスを持って五郎先輩のお酌をしに、俺の前からそそくさと去っていった。
「ありがとう、信二。助かったよ。」
こういうとき持つべきものは友達だ。
「桜庭はいつも絡み酒だから相手するの面倒なんだよな。・・・どうした、弘毅。顔色悪いぞ?今日は早めに切り上げたほうがいいんじゃないのか?」
「いや・・・。今日はとことん飲む。」
「なにかあったのか?」
信二の顔が心配そうに俺を見る。
「もしかして・・・つぐみか?」
「・・・・・・。」
「何年俺がお前を見てきたと思ってるんだよ。弘毅、お前、つぐみに惚れてんだろ?」
「信二・・・お前、いつから・・・」
「最近の弘毅見てればわかるよ。女嫌いのお前が、つぐみのことを話すときだけ、見たことのない柔らかい表情をするんだよ。自覚なかった?」
今まで上手く隠し通せていたと思っていたが、ここへきて俺のつぐみへの気持ちは、信二にバレてしまうくらい駄々洩れということか。
「・・・信二に隠し事は出来ねーな。」
俺は暗に信二の言葉を肯定した。
「俺、つぐみちゃんに嫌われたかも。」
「はははっ!らしくねーな!弘毅にそんな弱音を吐かせるなんて、つぐみもとんだ小悪魔に成長したもんだ。兄貴代わりの俺としては少し複雑だけどな。」
「・・・・・・。」
「大丈夫。つぐみは男に免疫がないから、突拍子のないことばかり言うんだ。以前つぐみが俺に『童貞ってなに?』って聞いてきたときはどう答えていいかまいったよ。」
「・・・なんて答えたんだ?」
「サクランボみたいな男のことだよって答えといた。」
「そのまんまじゃねーか。」
「でも納得してくれたぜ?ふーん。サクランボか~ってな。」
「・・・ふふっ。」
無邪気にそう答えるつぐみを想像して、つい顔がにやけてしまった。
「ほらほらその顔!その笑顔でつぐみと接してみたらいいんじゃねーの?
つぐみは人の笑顔が大好物だから。」
「・・・ああ。そうしてみるよ。」
そうして1次会、2次回、そしてサークル仲間の家で夜通し飲み明かした。
家に帰ったのは翌日の昼前。
飲み過ぎて胃酸が逆流し、俺はトイレで何度も吐いた。
つぐみから受けた拒絶のショックは、俺の体調の悪化を促進させた。
つぐみの言葉が頭の中でリフレインする。
『そうやって愛し愛されることから逃げて生きていくんですか?』
・・・なにが「愛」だ。
初恋もまだ知らないくせに。
『それって淋しくないですか?』
・・・淋しいに決まっている。
でもそれは愛を知らないからではなく、つぐみの心が俺に向かないことが淋しいんだ。
『私はいつになるかわからないけど、誰かを愛してみたい。』
・・・誰かって誰だよ。もう、俺でいいだろ?
つぐみ、「愛」なんて言葉に惑わされず、俺の言葉や行動を見てくれよ・・・。
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