君と見た夢のような世界、それは切ないくらいに澄んで美しく



「確か那覇くんといったかな。
 君は必ず来ると思っていた。
 だから見張らせてもらったよ」


 なんだろう。
 親父のこの感じ。

 余裕、があるというのか。
 なんというか……。


「全てお見通しということだったんですね」


 空澄(あすみ)は想定していたのだろうか。
 親父に見つかってしまうかもしれないということを。

 空澄は特に慌てることもなく冷静な様子で親父のことを見ている。


「君の考えていることなんて簡単に見抜くことができる。
 ただ四人で来るとは思わなかったがな。
 しかし、どうやって彩珠(あじゅ)を君たちのところまで連れ出したんだ。
 彩珠の部屋は二階だ。
 それに彩珠の部屋の前は部下たちが見張っている。
 それなのに不思議だ」


 私が七色に輝いている階段で下りてきた。
 そのことは親父には見えていない。

 七色に輝いている階段が見えるのは、私たち五人のように『心が呼吸できる世界』に今現在いる人たちのみ。

 だけど親父の場合は二十歳を超えているから、どんな心の状態でも『心が呼吸できる世界』が見えて入ることは絶対にない。


 どちらにしても、私たち五人は『心が呼吸できる世界』の存在を知らない親父の疑問に答えるわけにはいかない。


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