(旧)この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている



『心が呼吸できる世界』から歩いて三十秒くらいで現実の世界に着く。

 だけど今日はいつもと違う。
『心が呼吸できる世界』と現実の世界を繋ぐ出入り口の中に入って三分近く経っている。
 それでも、まだその中にいる。

 私たち五人は惺月(しずく)さんの姿が見えなくなるまで歩く速度を緩めながら何度も何度も後ろを振り向いている。


 そうしているうちに。
 現実の世界の目の前にたどり着いた。


 一歩前に進めば現実の世界に帰るところまできている。

 だけど、そうすれば『心が呼吸できる世界』と現実の世界を繋ぐ出入り口は消え惺月さんと二度と会うことができない。


 覚悟を決めた。
 そのはずだったのに……。

 現実の世界を目の前にしたら。
 気持ちが揺らいでしまった。

 惺月さんと二度と会うことができない。
 それは、やっぱり悲しいし辛い。

 だからといって現実の世界に帰らないわけにはいかない。

 この二つの気持ちが心の中を駆け回り。
 それは次第に激しくなっていく。

 あまりの激しさに、本当に走っているわけではなくても息が苦しくなっていく。

 わからない。
 どうすればいいのか。

 現実の世界は目の前にあるのに。
 そこに踏み出す一歩。
 それがこんなにも戸惑い躊躇をするなんて。

 どうしよう。
 このままでは現実の世界に帰ることができなくなってしまう。

 一体どうすれば———。


< 185 / 198 >

この作品をシェア

pagetop