(旧)この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている
「こんなにも素敵で良い世界。
だから忘れることができている。
辛くて苦しい現実を。
『心が呼吸できる世界』にいるときだけは」
確かに。
神倉さんが言うように『心が呼吸できる世界』にいるときだけは辛くて苦しい現実が頭と心の中から消えているように思える。
「と言っても、
今、こうして話してる時点で思い出してるということになるけどな」
神倉さんはそう言って顔を少し上げ天井の方を見つめた。
だけど、すぐに元に戻り。
「だけど、こうしてみんなに話をしてる。
ということは……話すとき、なのかもな。
『心が呼吸できる世界』が見えて来るきっかけになったであろう理由を少しだけ」
そう言った神倉さんの瞳は真剣そのもので。
「俺も……話そうかな、そろそろ。
これは良い機会かもしれねぇな」
そんな神倉さんのことを見た那覇もそう言った。
「私も……話してみようかな、少しだけ。
これが何かのきっかけになるかもしれない」
那覇に続いて佐穂さんもそう言った。
「俺も……話してみようと思う。
そうしたら少しだけ何かが変わるかもしれない」
佐穂さんに続き鈴森くんもそう言った。
「…………」
……私は……。
正直なところ、どうしていいのかわからなかった。
今日、『心が呼吸できる世界』に来たばかりで那覇以外の三人は初めて話をした人たち。
その人たちに自分のことを話す。
それは良いのかどうか。
というより、私自身が。
初めて話をする人たちに自分のことを必要以上に話す。
そのことに抵抗があるのかもしれない。
「じゃあ、まず私から話をしてもいいか」
そう思っていると。
神倉さんがそう言った。
神倉さんの言葉を聞いた那覇と佐穂さんと鈴森くんは「うん」言って頷いた。