(旧)この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている



「次は私が話してもいいかな」


 神倉さんの次に話を始めたのは佐穂さん。



 それは佐穂さんが初めて『心が呼吸できる世界』に来た一週間前のこと。


 佐穂さんはクラスメートたちから集団無視されるようになってしまった。


 その理由はすぐにわかった。

 それは。
 クラスメートのある女子たち三人の仕業だと。

 その女子たち三人のうちの一人が佐穂さんの幼なじみの男の子のことを好きだから。

 佐穂さんと幼なじみの男の子は家が隣同士ということもあり、家を出るタイミングが同じになることが多く、よく一緒に登校している。

 そのことをその女子が気に入らないらしく、佐穂さんはその女子から『光居(みつい)くんと関わらないで』と言われたことがあった。

 光居くんが佐穂さんの幼なじみの男の子。

 佐穂さんからすれば光居くんは幼なじみで恋愛感情などはない。
 だから気にすることなく光居くんと登校し続けていた。


 そうしたら、この仕打ち。

 たぶん女子たち三人はクラスメート全員に佐穂さんのことを無視するように仕向けた。

 女子たち三人はクラスの中で立場が強い。
 言うことをきかなければ、どんな仕打ちをされるかわからない。

 だからクラスメートたちは女子たち三人の言いなりになっている。

 集団無視は辛い。
 だけど佐穂さんにとってもっと辛いのは。
 仲良くしているクラスメートの女の子二人にも無視されてしまったこと。

 女子たち三人に仕打ちをされることが怖くて逆らうことができない気持ちはわからないでもない。

 だから佐穂さんは一人で耐えようと思った。
 この辛くて苦しい現状を。
 そして一週間、必死に学校に通い続けた。


 だけど。
 やっぱり耐えることができなくなり。
 とうとう学校を休むようになってしまった。


 学校を休んだ初日。
 佐穂さんは『心が呼吸できる世界』に繋がる真っ白な光の出入り口を見た。
 そして『心が呼吸できる世界』(ここ)に来るようになって二週間になる。



 佐穂さんは話を終え「私の話はこんな感じかな」と言った。

 そのときの辛い出来事を話していたからか、苦痛な表情をしている。


 そんな佐穂さんのブレスレットは。
 やっぱり真っ赤な色をしている。



 佐穂さんの話を聞き終え。
 私たち四人が共通して言った言葉。

 それは。
「気に入らないことがあるからといって
 周りを巻き込んで一人の人間を痛めつけるのは卑怯で酷いこと」


 佐穂さんが目を付けられて仕打ちを受けたこと。
 そのことに私たち四人は佐穂さんと同じように心を痛めた。


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