(旧)この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている
だけど。
その日は、そういうわけにはいかなかった。
親父がお母さんに矛先を向けたから。
親父はお母さんに「お前の育て方が悪いから彩珠はこんな出来損ないになったんだ」と言った。
お母さんはいつも親父に怯えている。
そして親父にそう言われたことによって、お母さんはさらに怯えていた。
私だけが言われるのなら我慢する。
だけど、お母さんが言われるのは耐え難いこと。
だから私は親父に「お母さんのことを責めないで」と言った。
すると親父は「母さんがそう言われているのも
全てお前が出来損ないだから悪いんだろ。
お前が我が家に災いをもたらしているんじゃないか」と言った。
さすがに親父の言葉に耐えかねたのか。
いつも親父に怯えているお母さんが「もうやめてください」と言った。
いつも親父に意見を言うことができないお母さん。
そんなお母さんが親父に自分の意思を伝えた。
だからだろうか。
一瞬、目を丸くした親父。
だけど、すぐにいつも通りの親父に戻り。
必死に意思を伝えたお母さんのことを無視して「ふんっ」と言って家を出て行ってしまった。
家を出ていった父親が向かうところ。
それは愛人がいるマンション。
絶対的な証拠はない。
だけど、かなりの確率。
そのことに気付いているのは私だけではない。
お母さんも気付いている。
そのとき思った。
『こんなふうでよく『良い父親』・『良き夫』と言われたものだ。
親父の本性が世に出たときには、
そのイメージはあっという間に崩れるというのに』と。