(旧)この青く澄んだ世界は希望の酸素で満ちている

出たい




「この時間に帰れば、
 気付かれない、よね」


 今、家の前にいる。

 時刻は朝の五時を回ったところ。

 この時間なら。
 まだ大丈夫。
 家族全員、寝ているはずだから。

 だけど。
 念のため、静か~に……。


 そう思いながら。
 玄関のドアの前に。


 そして。
 できるだけ音を立てないように鍵を鍵穴の中に入れる。

 鍵が鍵穴に入ったところで鍵を回転させる。

 そのときも音を立てないようにと思っているので思うように手を動かすことができない。

 不思議。
 自分の家に入るだけなのに。
 なんだろう。
 この緊張感と後ろめたい気持ちは。

 鍵を回している手が。
 妙に汗ばんでくる。

 それだけではない。
 顔からも変な汗が滲んできた。

 口の中は異常なくらいにカラカラになっている。

 呼吸は。
 なぜか止めてしまっている。
 これでは酸素不足になって頭がクラクラしてくるかもしれない。

 自分ではよくわからないけれど。
 鍵を見ている目つきが鋭くなっているような気がする。

 鍵を開ける。
 その行為をするだけで、こんなにも精神力を使ったことは今までに一度もなかった。


「開いたっ」


 少しだけ音が出てしまったけれど、なんとか鍵を開けることができた。

 その反動で小さいけれど思わず声が出てしまった。


 まずは第一関門突破。

 次は音を立てないようにドアを開けること。

 まずはドアノブを軽く握る。

 そして、ゆっくりとドアノブを傾け。
 そーっとドアを開ける。

 あとは、このまま足音を立てずに自分の部屋に戻れば……。


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