君と見た夢のような世界、それは切ないくらいに澄んで美しく
「今、両親と弟と妹は
今年の四月から親父の転勤先の近くのマンションで暮らしてる。
ただ、俺は引っ越したくなかったから、
そのまま地元で暮らしてるけど。
まぁ、一年後には戻ってくるから、
また一緒に暮らせるけどな」
……あっ……空澄……?
それはそれで問題なのでは……?
年頃の男子の家に年頃の女子がおじゃまする。
というのは……。
こっ……これは……。
こういう場合。
どう返答するのが正解、なのか。
せっかく空澄が行くところがない私に気を遣って親切に言ってくれている。
だから、お言葉に甘えて『お願いします』と言った方がいいのか。
って。
違うか、やっぱり。
空澄の親切な気遣いに本当に甘えて良いわけがない。
「彩珠、いつまでベンチに座ってるんだよ。
寝ないと身体もたないぞ。
俺も眠いから早く行こう」
空澄の家に行ってもいいのかどうか。
その返答に迷っていると。
空澄はすでに少しだけ歩きかけていた。
「って。
私、まだ何も言ってな……」
「いいから。
早く家に帰ってくつろぎたい」
私が言いかけた言葉が言い終わる前に空澄はそう言い。
歩きかけていた方向から私の方へ向き直り私のところに歩いてくる。
私の目の前に来た空澄は私の腕を掴み「立てるか」と言って、やさしく私のことを引き上げた。