君と見た夢のような世界、それは切ないくらいに澄んで美しく



 * * *


「さっ、寝よう」


 歯磨きや洗顔などを済ませ。
 パジャマに着替え。
 ベッドに横になる。


「すごく寝心地が良い」


 横になった瞬間。
 身体がマットレスに馴染んでいく。

 その寝心地の良さに心と身体の疲れがスーッと抜けていく。
 そんな感覚がはっきりとわかる。


 この部屋は癒しに溢れている。

 心の酸素が豊富で安らぎを感じることができる。



 それは私が住んでいる家とは真逆で。

 家……というより親父がなのだけど。


 親父が家にいると心の酸素は全くなく。
 心の二酸化炭素が充満している。

 だから心の中に二酸化炭素が溜まり。
 心が酸欠状態に。


 それは辛くて苦しくて。

 心の中で、もがいている。


 だけど。
 もがいても、もがいても。
 それは治まるどころか、深くて暗い海の中にいるような。
 そんな感覚が襲いかかってくる。

 それは、とてつもない恐怖。


 そして親父という恐ろしい魔物。
 それが襲いかかってくる。
 その度、あの辛さと苦しみと恐怖が私の心の中に現れてくる。



 ……って。

 ダメ。
 そんなことを思い出しては。


 せっかく空澄(あすみ)が貸してくれた素敵で素晴らしい部屋にいるのに。


 これからのことは。
 正直なところ、全くといっていいほどわからない。

 だけど。
 少なくとも今は。
 心の酸素が豊富な部屋で過ごすことができている。

 だから今は、そのことに感謝をして。
 先のことは、そのときになってから考えよう。


 ……とはいっても。
 正直なところ、その『そのとき』というは、ならない方がいいのだけど……。


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