エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~


珠希はぴくりとも動かない碧を不審に思い、碧の顔をまじまじと見つめる。
やはり眠っているようだ。

「碧さん、お疲れ様」

軽い寝息をたてている碧にねぎらいの言葉をかけ、そっと碧を抱きしめた。
すると無意識なのか、碧が珠希をぎゅっと抱きしめ返す。

「……ふふっ。うれしい」

夜勤続きで何日もまともに眠っていないのだろう。
ついに力尽きたに違いない。
笹原を目標にして、賢明に患者に向き合う碧がとても愛おしい。
碧なら、笹原の期待に応えて魔法使いにもなれるかもしれない。
珠希は碧の胸に顔を埋め、目を閉じる。
するとすぐに眠りの淵へと意識は落ちていき、昨夜は紗雪の肩を抱く碧の姿に傷ついて眠れなかったのだと思い出した。
けれど今はこうして碧と抱き合い、優しい時間を分け合っている。

「碧さん、好き」

こみ上げる想いがつい口を突いて出る。
いつか、碧の目をまっすぐ見ながら、同じ言葉を言ってみたい……。
すーっと寝息を立てながら、珠希は今ならその可能性がゼロではないような気がしていた。



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