エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
第六章 結婚の裏事情
第六章 結婚の裏事情  

十二月も半ばを過ぎ、珠希の職場もビル全体がクリスマス仕様にデコレートされている。
通りに面した一階のディスプレイには雪だるまにトナカイやサンタ。
そして、楽器販売も兼ねているロビーには、大きなクリスマスツリーが飾られている。
全国の各教室で毎年クリスマスシーズンに登場するツリーは〝飛躍のツリー〟と呼ばれ、生徒達の間ではとても有名だ。
過去にこの教室でレッスンしていた生徒の中には今では世界で活躍する有名音楽家が複数いて、その多くがツリーの前で写真を撮っていたからだ。
その事実は現在レッスンに励んでいる生徒たちのモチベーションアップにつながるようで、十二月に入ってツリーが登場して以来、毎日多くの生徒たちがツリーの前で抜群の笑みを浮かべている。
いつか自分たちも音楽家として大きなステージに立てるようにと、お願いしながら。
ついさっきまで珠希のレッスンを受けていた生徒達も、代わる代わるツリーの前に立ち、スマホを構えて写真を撮っている。
珠希は二十年ほど前の自分も同じだったと思い出しながら、その様子を眺めていた。

「こんにちは」

背後から声をかけられ、珠希は振り向いた。

「和合先生、お久しぶりです」
「あ、くるみちゃんのお母さん。こちらこそ、お久しぶりです。お迎えですか?」
「そうなんです。いつもなら職場が近い夫が仕事帰りに寄って一緒に帰って来るんですけど、今日は出張でこれないので、私が。先生とも半年ぶりくらいですね」
「はい。ご無沙汰してます。この半年で、くるみちゃん、かなり上手に弾けるようになりましたよ」

ふたりはそろってツリーの前にいる女の子に視線を向けた。
現在小学三年生の佐木くるみだ。

「そうなんです。家でも毎日練習していて、ここ最近ぐんと上達したような気がしていたんです。あ、親バカですみません」
< 131 / 179 >

この作品をシェア

pagetop