エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「強がらなくていいのに。新婚さんなんだから、会いたくて当然。文句のひとつやふたつ、言ってもいいと思うよ。どうせ珠希のことだから、ものわかりのいい返事しかしないんでしょ?」
「……そうだけど。文句なんて、言えるわけないから」

珠希は力なくつぶやいた。
結婚した理由を考えると、つい落ち込んでしまうのだ。
紗雪からの頻繁なコンタクトに辟易していた碧が仕事に集中できるように、そして碧の結婚を待ち望む彼の両親を安心させるため。
そんな目的があっての結婚だから、碧が珠希との約束より仕事を優先するのは当然で、今日のことにも珠希が文句を言える立場にいないのはわかっているのだが。
結婚以来急速にふたりの距離が縮まり、この先もうまくやっていけそうな自信も生まれてきた中で、楽しみにしていた約束がキャンセルされると、気が滅入り、落ち込んでしまうのはどうしようもない。

「一緒に見たかったな……」

碧には言いたくても言えない本音が、ついこぼれ落ちる。

「でしょうね。でも今日のところは私で我慢して」

間髪入れず返ってきた志紀の言葉に、珠希は吹き出した。

「ふふっ。我慢どころか喜んで。私の方こそあのイケメンの彼氏さんじゃなくてごめんね」
「イケメンの彼氏はこの時期お店が忙しくて、イルミネーションどころじゃないからいいのいいの。気にしないで」

志紀の恋人は、ここから少し歩いた先にあるレストランでシェフをしている。
ハンバーグがメインの人気店で、クリスマスシーズンの今は連日忙しくてなかなか会えずにいるらしい。

「それに、イルミネーションとか興味なさそうだし。というか、かき入れ時のクリスマスとかバレンタインをふたりで過ごしたこともないから、そういうの期待してないし」
「志紀……」

唇を尖らせて寂しそうに言われても説得力はないうえに、拗ねている志紀は、あまりにもかわいらしい。 


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