エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「じゃあ、今からイケメン彼氏さんに会いに……じゃない、ハンバーグを食べに行かない? でも、予約してないから無理かな――あっ」

人混みの中で急に立ち止まったのが悪かったようだ。
誰かとぶつかった珠希は、左腕に軽い衝撃を受けてよろめいた。

「すみません、大丈夫ですか?」

慌てて振り返ると、ひとりの男性がその場で仁王立ちし、珠希を睨みつけている。

「べらべらしゃべってないで、気をつけろよ……は? まさか、和合さん?」
「は、はい……え、あ、大宮さん……?」

珠希は目を見開き呆然とつぶやいた。
今ぶつかった相手は、先月顔を合わせて以来の大宮だった。
彼もイルミネーションを見に来たのかラフなスタイルで、傍らには女性が寄り添っている。
明るく染めた長い髪を肩におろしていて、厚い唇が印象的な色気のある女性だ。
珠希に興味などないのか、つまらなそうに大宮の腕を掴んでいる。

「あの。本当にすみません。話に夢中でつい。あの、お怪我は――」
「ないよ。それより、これだけ人が多いんだ。ちゃんと前を見て歩けよ」
「は、はい……すみません。……あの?」

ぞんざいな態度で答える大宮に、珠希は違和感を覚える。
大宮と顔を合わせるのはこれで三回目だが、これまでの彼は珠希に対して腰が低く必要以上に愛想がよかったのに、今の大宮に、そんな素振りはまるでない。
腰が低いどころか珠希をバカにしたような目で睨みつけ、愛想のかけらも見当たらない。
ぶつかったのは事実だが、肩と肩が軽く触れ合った程度でここまで怒るのもおかしい。
前回、珠希と一緒に顔を合わせていた志紀も不思議に思っているのか、いぶかしげな視線大宮に向けている。

「えっと……あの、なにもなければ私たちはこれで。すみませんでした」

珠希は頭を深く下げ、この場を去ろうと歩き出した。

「どうして俺との見合いを断ったんだ?」


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