エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
背を向けた途端、大宮の怒りに満ちた声が聞こえ、珠希は足を止める。
見合いと聞こえたが、一体なにを言っているのかさっぱりわからない。
振り返ると、さらに厳しい表情を浮かべた大宮が明らかに珠希を睨んでいる。

「えっ?」

背中にぞっと寒気が走り、珠希は後ずさる。

「どうして見合いを断られたのか納得できない。俺は次期院長だぞ。俺と結婚したら君は院長夫人だ。なのにどうして断ったんだ」

まるでそれが罪だとばかりに、大宮は声を荒げて珠希に迫る。

「俺が声をかけてやったらうれしそうに笑ってたくせに、なんだよ、たかが製薬会社の娘が偉そうなんだよ」
「そう言われても、私はなにも知らないんです。お見合いって一体なんの話ですか?」

珠希は答えに困る。

「まさか、聞いてないのか?」

大宮は眉をひそめる。

「はい。あ、それっていつ頃のお話ですか?」

それが碧と結婚した後の話なら、両親はわざわざ新婚の珠希にそんな話は通さないだろう。知らなくて当然だ。

「実は私、最近――」
「先月、うちの病院で顔を合わせた翌日だ。初めて会ったときから和合さんと結婚したいと考えていたから、見合いに向けて準備していたんだ」
「えっ。そうなんですか……」

珠希の予想は外れていた。
だとすれば、碧との見合いの話よりも大宮からの話の方が早く持ち込まれていたことになる。
その事実が妙に引っかかる。

「親戚に頼んで見合いの話を持ち込んだのにあっさり断るし、直接会いに行ったらあんたには結婚を考えている男がいるからとか見え透いた嘘を言って体よく追い払うなんてな。思い出してむかついてきた」

大宮は顔を大きく歪め、舌打ちを繰り返している。
顔見知りというほどの付き合いもなかった相手だが、これまで抱いていた印象とのあまりの違いに、珠希は言葉を失った。

「で? まだ間に合うぞ。院長夫人になりたかったら、今からでも見合いしてやってもいいんだぞ」


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