エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「えっ」

思いがけない話に、珠希は耳を疑った。
そして大宮の腕にぎゅっとしがみついている女性に視線を向ける。
大宮から離れようとせず、ただ黙ってこのやり取りを聞いているが、彼女は大宮の恋人ではないのだろうか。
自分以外の女性と見合いをしようとする大宮を、どう思っているのだろう。
うかがい見ても、無表情を貫く彼女からは、なんの感情も伝わってこない。

「で、いつにする? 俺はこの週末でもいいぞ」
「なに言ってるんですか?」
「し、しきっ」

それまで黙って様子を見ていた志紀が、声をあげている。

「お見合いなんて、するわけないでしょ」

志紀は珠希よりも前に出て、きっぱりと言い放った。

「見え透いた嘘なんかじゃないわよ。ほら、見てみなさいよ」

志紀はそう言うや否や珠希の左手を掴むと、大宮の前にかざして見せた。
プラチナの結婚指輪がキラリと光り、存在を主張している。

「珠希は結婚したの。だからお見合いなんてできるわけないでしょう? わかった? もう遅いの」
「結婚? は? いつだよいつ」

ここでようやく状況を理解したのか、大宮の顔色が変わる。今まで本気で珠希と見合いできると信じていたようだ。

「一カ月ほど前です」

志紀につられたのか、珠希も強気で言い返す。

「な、なんだよそれ。院長夫人にしてやろうと思ってたのに、なんだよ」
「おあいにく様、珠希の結婚相手は――」
「志紀、いいから、もう」

志紀が碧の立場を口にしそうになり、珠希は慌てて遮った。わざわざ大宮に伝える必要はないはずだ。

「ちっ。なにこそこそやってるんだよ」

大宮はよほど腹が立つのか荒い仕草で頭をぐしゃぐしゃにし、再び珠希を睨んだ。

「だったら、今後の和合製薬とのつきあいは考えさせてもらう」


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