エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
おずおずと椅子から立ち上がった珠希は、向かいに座る碧のもとにやってきて、隣の椅子に腰をおろした。
「守秘義務で言えないことが多いことは理解しています。だから、無理に答えてくれなくてもいいんです」
椅子ごと碧に近づいた珠希は、両手で碧の手をつかんでお互いの目を合わせた。
「如月紗雪さん」
珠希の口からこぼれたその名前に、碧の手に力が入る。
「は……? まさか、今日見ていたのか?」
碧は顔色を変え、荒々しい仕草で珠希の肩を抱き寄せた。
気づけば珠希は碧の脚の上にちょこんと座っている。
「大丈夫だったか? あのとき俺、紗雪と紗雪のお母さんにお父さんの病状を話していて」
碧は珠希の身体を抱きしめる。
「はい。病状と……回復の見込みについて話をしていました」
「ん……そうだったな」
碧は顔を大きく歪めた。
「患者さんのことは答えられないと思うので、ひとりごとだと思って聞いていてください」
「……わかった」
なにかを察した碧は表情を消し、珠希をまっすぐ見つめた。
「紗雪さんのお父様の病気、おじいちゃんと同じ病気かもしれないって思ったんです。脳外科医を志す者なら誰もが自分の手で治療法を見つけたいと考えるような病気だと笹原先生から聞いたことがあります。再発したときの標準治療は確立されていないともおっしゃってました」
珠希を抱く碧の手に力がこもる。
見ると碧は珠希を抱きしめたまま、目を閉じていた。
「告知のとき、笹原先生は私や家族に頭を下げて謝ったんです。全ての病気を治せる魔法使いじゃなくてごめんねって。そんなことを言われたら私、責められなかった。先生が一生懸命治療にあたっているのを見ていたし、製薬会社の娘なのに、治療できるお薬を用意できないのも悔しいし」
「珠希……」
いつの間にか目を開いていた碧が、心配そうに珠希の顔を覗き込む。
「守秘義務で言えないことが多いことは理解しています。だから、無理に答えてくれなくてもいいんです」
椅子ごと碧に近づいた珠希は、両手で碧の手をつかんでお互いの目を合わせた。
「如月紗雪さん」
珠希の口からこぼれたその名前に、碧の手に力が入る。
「は……? まさか、今日見ていたのか?」
碧は顔色を変え、荒々しい仕草で珠希の肩を抱き寄せた。
気づけば珠希は碧の脚の上にちょこんと座っている。
「大丈夫だったか? あのとき俺、紗雪と紗雪のお母さんにお父さんの病状を話していて」
碧は珠希の身体を抱きしめる。
「はい。病状と……回復の見込みについて話をしていました」
「ん……そうだったな」
碧は顔を大きく歪めた。
「患者さんのことは答えられないと思うので、ひとりごとだと思って聞いていてください」
「……わかった」
なにかを察した碧は表情を消し、珠希をまっすぐ見つめた。
「紗雪さんのお父様の病気、おじいちゃんと同じ病気かもしれないって思ったんです。脳外科医を志す者なら誰もが自分の手で治療法を見つけたいと考えるような病気だと笹原先生から聞いたことがあります。再発したときの標準治療は確立されていないともおっしゃってました」
珠希を抱く碧の手に力がこもる。
見ると碧は珠希を抱きしめたまま、目を閉じていた。
「告知のとき、笹原先生は私や家族に頭を下げて謝ったんです。全ての病気を治せる魔法使いじゃなくてごめんねって。そんなことを言われたら私、責められなかった。先生が一生懸命治療にあたっているのを見ていたし、製薬会社の娘なのに、治療できるお薬を用意できないのも悔しいし」
「珠希……」
いつの間にか目を開いていた碧が、心配そうに珠希の顔を覗き込む。