エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
抱かれたばかりの珠希の身体は全身が赤く上気していて柔らかい。その肌触りを楽しむように、碧は珠希をゆったりと抱きしめる。そして。

「無理をさせたよな? ごめんな」

わずかばかりの反省を込めて、今度は額にキスを落とした。

「あ、今のは現在の碧さんですね」

胸の中でクスクス笑う珠希の顔を、碧は覗き込む。

「さっきから五年前とか現在とか、なんのことだ?」
「ふふっ。私、気づいたんです。碧さん、五年前の自分は、技術はあるけど情がない医師だったって言ってましたよね? 最近……昨日の晩はとくにそうでしたけど、ベッドの中の碧さん、とても強引で乱暴で激しくて。なんだか別人みたいって思ってたんです」
「あー、昨日か、それはそうかもな」

思い当たることでもあるのか、気まずげに肩をすくめている。

「どうしてかなって思っていたんですけど、笹原先生の件で考え方が変わったって言っていたので、最近のベッドの中の碧さんは、五年前の名残なんだとわかりました」

珠希の指摘に、碧は考え込む。

「五年前か……それは当たってるかもしれないな。ベッドの中だと珠希に煽られて自分が自分じゃない気がするし。だけど、昨日に関しては違うな」

珠希はなにげに恥ずかしいことを言われたような気がしたが、ひとまず聞き流すことにする。

「違う? 私はてっきり五年前の碧さんが顔を出したのかと」 
「たしかにその可能性はあるけど」 

碧はそれまでの明るい表情を消し、不機嫌な声でつぶやいた。

「大宮」
「え?」

短すぎて聞き取れず、珠希は視線でもう一度と訴える。

「大宮病院の問題児。あいつが珠希に接触したって拓真さんから聞いて、冷静じゃいられなかった。悪い」
「お兄ちゃんから?」
「ああ。珠希が思っている以上に、あの人、珠希を心配してる。だから俺に電話してきて、様子を気にかけてやってくれって」
「あ……うん」
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