エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
碧と拓真が連絡を取り合っているのは知っていたが、まさか大宮の件を伝えているとは思わなかった。

「今度の競演も、少し前から考えていたみたいだな」
「……え、でも、今日病院で告知ポスターを見てその気になったって」
「最終的に決めたのは今日かもしれない。でも、イベントがあるのを知ってからずっと考えていたと思う」
「でも」

珠希には碧の言葉がどうしても信じられない。

今日も帰り際「王子様が降臨するのを期待してろ」などとふざけていたのだ。

「自分ひとりが音楽を続けてるっていう引け目を、珠希からきれいさっぱり取り除いてやりたいって。そんなことを言ってた。……いいお兄さんだな」

碧はしんみりとした声でそう言って、珠希の頭を優しく何度も撫でる。

「はい。それはもう、昔からよくわかってます」

珠希は鼻の奥がつんと痛くなり、慌てて碧の胸に顔を埋めた。
今日は朝から晩まで拓真に振り回されている。
そろそろいい加減にしてほしい。

「王子様ばりの見た目で大企業の御曹司。おまけにピアノの腕もピカイチ。なにより俺以外で珠希を泣かせることができる唯一の男」

碧は指折り数え、芝居じみた声でつぶやいている。

「俺も負けてられないな。まずはこれからも、ベッドの中では五年前の俺に頑張ってもらうことにして。珠希も気に入ってるみたいだし」

ご機嫌な笑い声をあげる碧の身体を、珠希は幸せをかみしめながら抱きしめた。




< 175 / 179 >

この作品をシェア

pagetop