エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
かすれた声で問いかける珠希に、父は「珠希のためなんだ」と自身に言い聞かせるようにつぶやき、ぎこちない笑みを浮かべた。 




「白石病院のお医者様で、とても優秀な方らしいわよ」

母の熱心な声に上の空でうなずきながら、珠希は目の前のタブレットを食い入るように見つめていた。
そこに表示されているのは白石病院のHPに不定期に掲載される、医師のブログだ。
各診療科の医師が持ち回りで順に書いているらしく、今眺めている記事のテーマは脳卒中だ。

「見た目も素敵よね。モデルさんか俳優さんみたい」
「うん……」

記事の右上には執筆した男性医師の顔写真があり、珠希は見覚えのあるその顔から目が離せずにいる。
それは最近顔を合わせた宗崎だった。

「今は白石病院の脳神経外科に勤務しているが、いずれご実家の病院を継がれる予定だ。宗崎病院は知っているだろう? 彼は……碧くんは院長の息子なんだ。何度か顔を合わせたことがあるが、人当たりがよくて頭が切れそうな医師だな」
「宗崎……碧」

珠希は父が口にした名前をぼんやりと繰り返した。
唐突に珠希に持ち込まれた見合いの相手は、先日白石病院で顔を合わせた医師の宗崎だった。

「でも、どうして突然お見合いなんて……」

両親も拓真も恋愛結婚で、珠希にもこれまで一度も見合いの話などなかったのだ。
結婚についてうるさく言われた記憶もない。
それなのにいきなりの見合い話。
おまけに相手は知り合ったばかりの宗崎だ。
見合いと聞いて断ろうと思ったが、相手を知った途端、思わず言葉をのみ込んでしまった。

「それに、父さんは特定の病院との深い付き合いを避けてたよね。癒着してるとか思われないようにって。なのに、どうして白石……じゃない。宗崎病院と縁をつなぎたいの?」

これまで父が頑なに貫いていた信念からかけ離れた話を、珠希は簡単には信じられない。
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