エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
碧の母は、三十歳をとっくに過ぎても結婚する気配のない息子にやきもきしていたらしく、この見合いを楽しみにしていたと、あっけらかんと笑っている。 
仕事で何度か顔を合わせていた父親同士だけでなく、初対面の母親たちも気が合ったのかすぐに打ち解け話も弾んでいる。
和合家にとっては家業を守るための願ってもない縁談だ。
珠希の父や母が前向きに臨むのは理解できるが、両家の明るいやり取りからはそんな裏事情はまるで見えない。
単純に珠希たちの幸せを願ってこの席を用意したと思えるような、温かな空気感。
珠希はこの部屋に足を踏み入れて以来感じている違和感を、拭えずにいた。
この見合いによる宗崎家のメリットを思いつかないのだ。
碧は患者からの評判が抜群の総合病院の後継者だ。
病院の発展に役立つ結婚相手なら、珠希以外に大勢いるはずだ。
なのにどうしてこの見合いを受けたのか、何度考えてもわからない。
珠希の父と碧の父は新薬の説明会やパーティーで顔を合わせる機会があり、若い頃にはMRと医師という付き合いもあったと聞いている。
当時から気が合うと感じていたらしいが、ほどよい距離感を保つよう努力していたと、言っていた。
それはすべて、和合製薬と宗崎病院の間に面倒な噂をたてたくなかったからだ。
特定の病院との親密な付き合いや癒着を完全に排除する。
それは亡くなった珠希の祖父の信念で、今も和合製薬全体に浸透している。
和合製薬に対して世間が抱くイメージがクリーンであるのは、その信念によるところが大きい。
けれど今、珠希の父も母もこの縁談がまとまることを願い、珠希の気持ちは二の次で強引に話を進めている。
祖父から続くこれまでの主義を台無しにするような状況に、珠希の胸に不安が募っていく。
和合製薬の経営状況は、宗崎病院との関係を強化しなければならないほど逼迫しているのだろうか。
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