エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
たとえそうだとしても、この見合いで珠希が和合製薬の現状を立て直すのは難しいはずだ。
医師という社会的に認められた立場と端正な見た目を持つ碧が、結婚相手に困っているとは思えない。
珠希との結婚を望むはずがないのだ。
碧がこの場にいるのは、両親の顔を立てるため。
そして今日を最後にこの見合いに区切りをつけるつもりだからだろう。
だからきっと、碧と会うのも今日が最後になるはずだ。
そう思った途端、またもや珠希の胸に鈍い痛みが走った。

「和合さん?」

向かい側に座っている碧の心配そうな声に、珠希はハッと顔を上げる。

「気分でも悪い? 冷たい飲み物でももらおうか?」
「いえ、大丈夫です。ちょっと、あの……緊張しているというか」

珠希はしどろもどろに答えた。
碧は珠希の慌てぶりにくすりと笑う。

「それもそうだよな。高級料亭での絵に描いたような見合いだから、緊張するのも仕方がないか。俺も柄にもなく落ち着かないし」

珠希は目を瞬かせる。

「ん? 初めての見合いなんだ別におかしくないだろう。同じ初めてでも執刀医として手術室に入ったときよりも落ち着かないな」
「え、それほど?」

どう見ても落ち着いている碧の言葉とは思えない。
それに大病院の後継者ともなれば頻繁に見合いの話が持ち込まれそうだが、そうではないようだ。

「親たちはのんきだけどな」

見れば両親達四人は、昔からの顔なじみのように話が盛り上がっている。
宗崎は先日の白衣姿もかっこよかったが、濃紺のスーツもよく似合っている。
整った目鼻立ちと凜とした面差し。珠希はつい見とれてしまう。
落ち着かないというのは、珠希の緊張を解くための気づかいだろう。
先日の遥香とのやりとりからも感じた優しさに触れ、珠希は改めて素敵な人だと感じた。

「私の両親も、誰とでもすぐに仲良くなるんです。私は人見知りなので羨ましいです」

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