エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
続けて珠希のコートも取り出して手渡すと、両親たちに声をかける。
「じゃあ、俺たちはここで」
あっさりとそう言うと、碧は表情を整え珠希の父と母に向き直る。
「遅くならないうちに自宅にお送りします」
「あ、ああ……」
珠希の父と母は顔を見合わせる。
けれどすぐに状況を察したのか「よろしくお願いします」と落ち着いた声で答え、深々と頭を下げている。
思いがけない展開に動揺していた珠希は、碧の笑顔に促され、急いで帰り支度を始めた。
料亭を出たふたりは、碧が運転する車で珠希の勤務先である音楽教室にやってきた。
八階建ての立派なビルの三階から七階はレッスンルームで、一階と二階ではピアノやエレクトーンなどの楽器一般が展示販売されている。
フロアの一角には楽譜や音楽に関する書籍なども豊富に取りそろえられていて、今もレッスン終わりの生徒たちがあれこれ手に取っている。
複数の私鉄が乗り入れているターミナル駅から近く、オフィス街の中心にあることから会社帰りの大人も多く在籍していて、平日の夕方以降は珠希も社会人の生徒を担当している。
「ここが和合さんの職場?」
足を踏み入れて以来、碧は興味深そうに館内を見回している。
これまで楽器経験といえば学校の授業で学んだ程度。
広いフロアに展示されている楽器のどれを見ても新鮮で、わくわくするらしい。
入ってすぐに受付の女性が珠希と碧に気づき会釈した。
というよりも、長身で端正な容姿を持つ碧から目が離せないというのが正確だ。
隣を歩く珠希にも好奇心に満ちた視線を向けていて、どうにも居心地が悪い。
「ピアノを弾く知り合いなら何人かいるけど、エレクトーンはこの間うちの病院のホールで珠希さんの演奏を聴いたのが初めてだよ」
フロアの中央に置かれているエレクトーンを遠目に眺めながら、碧は弾んだ声をあげている。
受付の女性からの熱い視線に気づく様子はまるでない。
「じゃあ、俺たちはここで」
あっさりとそう言うと、碧は表情を整え珠希の父と母に向き直る。
「遅くならないうちに自宅にお送りします」
「あ、ああ……」
珠希の父と母は顔を見合わせる。
けれどすぐに状況を察したのか「よろしくお願いします」と落ち着いた声で答え、深々と頭を下げている。
思いがけない展開に動揺していた珠希は、碧の笑顔に促され、急いで帰り支度を始めた。
料亭を出たふたりは、碧が運転する車で珠希の勤務先である音楽教室にやってきた。
八階建ての立派なビルの三階から七階はレッスンルームで、一階と二階ではピアノやエレクトーンなどの楽器一般が展示販売されている。
フロアの一角には楽譜や音楽に関する書籍なども豊富に取りそろえられていて、今もレッスン終わりの生徒たちがあれこれ手に取っている。
複数の私鉄が乗り入れているターミナル駅から近く、オフィス街の中心にあることから会社帰りの大人も多く在籍していて、平日の夕方以降は珠希も社会人の生徒を担当している。
「ここが和合さんの職場?」
足を踏み入れて以来、碧は興味深そうに館内を見回している。
これまで楽器経験といえば学校の授業で学んだ程度。
広いフロアに展示されている楽器のどれを見ても新鮮で、わくわくするらしい。
入ってすぐに受付の女性が珠希と碧に気づき会釈した。
というよりも、長身で端正な容姿を持つ碧から目が離せないというのが正確だ。
隣を歩く珠希にも好奇心に満ちた視線を向けていて、どうにも居心地が悪い。
「ピアノを弾く知り合いなら何人かいるけど、エレクトーンはこの間うちの病院のホールで珠希さんの演奏を聴いたのが初めてだよ」
フロアの中央に置かれているエレクトーンを遠目に眺めながら、碧は弾んだ声をあげている。
受付の女性からの熱い視線に気づく様子はまるでない。