エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
それどころか楽器の横を通り過ぎるたびに感嘆の声をあげていて、まるでレッスンを始めたばかりの子どものようだ。
「ここに楽譜が揃っているんです」
珠希は気持ちを講師モードに切り替え、壁一面に楽譜がズラリと並んでいる棚を指差した。
プライベートでの男性とふたりきりの時間には慣れていないが、仕事という前提があれ
ば落ち着いて対応できる。
今も面倒な感情は脇に置いて楽譜選びに集中すればいいと、自分に言い聞かせた。
「こんなにたくさんあるの? へえ、あっちはクラシックやジャズでこっちはアイドルやらロックバンドか。盛りだくさんだね」
このフロアだけでも数千冊の楽譜があるはずだ。
「これだけあるとどれを弾けばいいのか悩みますよね。同じ曲でも楽譜によって難易度が変わるんです。簡単にいえば、音符の数が違うんですよね」
珠希は講師としての声音を心がけ、落ち着いた口調で説明する。
そして先日碧と遥香に聞かせたグリシーヌの曲の楽譜を二冊取り出した。
「これが同じ曲? 素人の俺でもこっちの方が音符が多くて小さいし、難しそうだってわかるな」
「ですよね。私も簡単な方の楽譜からスタートしたんです」
珠希はいったん言葉を区切り、手にしていた楽譜のうち、難易度が高い方を棚に戻した。
「遥香ちゃん、エレクトーンもピアノも初めてなら、きっと楽譜を読めないし鍵盤にどう触れていいのかもわからないと思うんです」
「まあ、そうだろうな。俺だってエレクトーンの前に座っても、両手をどこに置いていいのすらわからないだろうな」
珠希は小さくうなずいた。
「遥香ちゃんが教室でレッスンを始めても、すぐにグリシーヌの曲が弾けるわけじゃないんです。順を追って、楽譜を読めるように、そして楽器を弾けるようにレッスンを続けるんです」
「……うん、それはわかる」
唐突に珠希が口にした言葉に、碧は怪訝そうな表情を浮かべる。
「ここに楽譜が揃っているんです」
珠希は気持ちを講師モードに切り替え、壁一面に楽譜がズラリと並んでいる棚を指差した。
プライベートでの男性とふたりきりの時間には慣れていないが、仕事という前提があれ
ば落ち着いて対応できる。
今も面倒な感情は脇に置いて楽譜選びに集中すればいいと、自分に言い聞かせた。
「こんなにたくさんあるの? へえ、あっちはクラシックやジャズでこっちはアイドルやらロックバンドか。盛りだくさんだね」
このフロアだけでも数千冊の楽譜があるはずだ。
「これだけあるとどれを弾けばいいのか悩みますよね。同じ曲でも楽譜によって難易度が変わるんです。簡単にいえば、音符の数が違うんですよね」
珠希は講師としての声音を心がけ、落ち着いた口調で説明する。
そして先日碧と遥香に聞かせたグリシーヌの曲の楽譜を二冊取り出した。
「これが同じ曲? 素人の俺でもこっちの方が音符が多くて小さいし、難しそうだってわかるな」
「ですよね。私も簡単な方の楽譜からスタートしたんです」
珠希はいったん言葉を区切り、手にしていた楽譜のうち、難易度が高い方を棚に戻した。
「遥香ちゃん、エレクトーンもピアノも初めてなら、きっと楽譜を読めないし鍵盤にどう触れていいのかもわからないと思うんです」
「まあ、そうだろうな。俺だってエレクトーンの前に座っても、両手をどこに置いていいのすらわからないだろうな」
珠希は小さくうなずいた。
「遥香ちゃんが教室でレッスンを始めても、すぐにグリシーヌの曲が弾けるわけじゃないんです。順を追って、楽譜を読めるように、そして楽器を弾けるようにレッスンを続けるんです」
「……うん、それはわかる」
唐突に珠希が口にした言葉に、碧は怪訝そうな表情を浮かべる。