エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
初めて会ったときにも食事に誘われたり、連絡先を聞かれたりして困ったのだ。

「この後お仕事があるなら私が車でお送りしますし、大丈夫ですよ。是非ご一緒にどうでしょう」

大宮はどうでしょうと言いつつジャケットのポケットから車のキーを取り出し、珠希の目の前で揺らしている。
よほど珠希と一緒に食事をしたいようだが、珠希の隣にいる志紀の存在は無視。
気がついていないのだろうか。
珠希は志紀が気を悪くしていなければいいと思いながら、視線を向けた。

「え……?」

予想と違い、大宮を眺める志紀の顔は赤く、笑い声をあげそうになるのを我慢しているのか小刻みに肩を揺らしていた。
どう見ても珠希と大宮のやりとりを面白がっているようだ。

「あ、えっと……」
珠希の視線に気づいた志紀は、気まずそうにつぶやくと、慌てて表情を整えた。

「そ、そうだ、珠希。これから来月のイベントの打ち合わせなんだよね。約束の時間が迫ってて食事をする時間もないって言ってなかった? 急いだ方がいいんじゃない?」

わざとらしい笑顔を作り、志紀は大きな声で珠希に話しかける。

「あ、あ……そうだった」

志紀の真意を察して大きな声で答えを返し、珠希は振り返った。

「大宮さん、すみません。この後打ち合わせが控えていて、急いでいるんです。残念ですが昼食は遠慮させてください。本当に申し訳ありません」

珠希はそう言って勢いよく頭を下げる。
大宮は多少ムッとした表情を浮かべたが、仕方がない。
決して嘘を言っているわけではないのだ。

「それでは、失礼いたします。今日はわざわざお声がけくださりありがとうございました」
「あ、あの、和合さん。だったら連絡先を――」
「今後も兄がこちらでお世話になると思いますのでよろしくお願いします」 

焦る大宮の言葉を聞こえなかった振りで遮り、続けざまに「では失礼いたします」と繰り返す。

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