エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき～この愛に溺れるわけにはいきません～
「うちの教室で大人気の美人先生がなに言ってるんだか。彼氏なんて珠希がその気になったらすぐなのに」
「大人気なのは生徒達からでしょ？　それも小学生の女の子たちがほとんど。彼氏ができる見込みはゼロで絶望的」

同僚たちも多くが女性となれば、男性と知り合う機会はほとんどない。
恋人ができる気配などまるでないのだ。

「まあ、和合製薬の社長令嬢だもんね。きっちり箱詰めされた箱入り娘だから、鈍くても仕方がないか」
「もう、鈍いって何度もやめて。それに箱入り娘ってわけじゃないんだから」

たしかに業界トップの売り上げを誇る製薬会社の社長令嬢だが、その立場だけで箱入り娘と決めつけられるのは心外だ。
両親からは兄の拓真か珠希のどちらかに会社を引き継いでほしいと言われて育てられてきた。
女性が後を継ぐことに抵抗がない両親は、拓真だけでなく珠希も後継者候補として考えていたのだ。
だから周囲の人たちから蝶よ花よと甘やかされた、いわゆる箱入り娘というイメージに沿った育てられ方はされてこなかった。
和合製薬は人の命に直結する企業であるだけに、経営の安定は必須だ。
後継者問題を起こさないことも重要で、もしも社長交代時に問題が生じた場合、薬剤の製造や供給に問題が生じる可能性がある。
それを防ぐためにも、代々和合家が社長職を引き継いでいるのだ。
それに、和合製薬は創立百年を超える老舗企業で、グループ会社を含めると従業員は全世界に五万人近くいる。従業員と、その家族の生活を支えるためには半端な意識で社長という責任ある職には就けない。
薬を必要とする人の気持ちを第一に考え、寄り添えるだけの正義と強さを身につけるようにと繰り返し言われ、育てられてきた。和合家という裕福な家庭に生まれたことにあぐらをかかず、心身に弱点を抱える人のために尽くせとも。

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