エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
珠希は両親に向き直り表情を引き締める。迷いがゼロになったわけではないが、碧のことを思えばここで流されるわけにはいかない。
「どうして。碧君を気に入ったなら、結婚すればいいじゃないか。あ、父さん達が急かしているのが面倒なのか? だったらひとまず入籍だけ済ませておいて、式のことはおいおい考えていくっていうのもありだぞ」
「そんなこと、宗崎さんに申し訳ない。あれほど熱心なお医者さまを、うちの事情に巻き込むわけにはいかない」
気持ちを押し殺した珠希の声が、リビングに響いた。
和合製薬の経営状況がどれほど逼迫しているのか詳細はわからないが、会社を建て直すための結婚が、うまくいくわけがない。
碧は脳外科医として将来を期待され、彼自身もそれに応えようと悩み奮闘している。
実家の病院を継げば、さらに彼が背負うべき責任は増す。
ただでさえフル稼働している碧に、これ以上の重荷を背負わせるわけにはいかないのだ。
それも、自身にはなんの関係もない重荷を。
会社の状況や両親の思いを考えれば結婚するべきだとわかっているが、彼に惹かれているからこそ、面倒なことに巻き込めない。
碧には医師としての立場に専念してほしいし、幸せになってほしい。
だから、碧とは結婚できない。
それが碧が病院へと向かった後、自宅に向かうタクシーの中で何度も迷った末に出した結論だ。
こみ上げる寂しさや痛みは、時が経てば消えていく。
碧の顔も声もなにもかも、そのうち忘れるに違いない。
「うちの事情って、珠希、お前気づいていたのか?」
驚き目を丸くしている父に、珠希はうなずいた。
「は? なんで、いつ……」
動転している父の姿に、珠希は自分の推測が間違っていなかったのだと確信した。
和合製薬の経営状況が芳しくないのはたしかなようだ。
「どうして。碧君を気に入ったなら、結婚すればいいじゃないか。あ、父さん達が急かしているのが面倒なのか? だったらひとまず入籍だけ済ませておいて、式のことはおいおい考えていくっていうのもありだぞ」
「そんなこと、宗崎さんに申し訳ない。あれほど熱心なお医者さまを、うちの事情に巻き込むわけにはいかない」
気持ちを押し殺した珠希の声が、リビングに響いた。
和合製薬の経営状況がどれほど逼迫しているのか詳細はわからないが、会社を建て直すための結婚が、うまくいくわけがない。
碧は脳外科医として将来を期待され、彼自身もそれに応えようと悩み奮闘している。
実家の病院を継げば、さらに彼が背負うべき責任は増す。
ただでさえフル稼働している碧に、これ以上の重荷を背負わせるわけにはいかないのだ。
それも、自身にはなんの関係もない重荷を。
会社の状況や両親の思いを考えれば結婚するべきだとわかっているが、彼に惹かれているからこそ、面倒なことに巻き込めない。
碧には医師としての立場に専念してほしいし、幸せになってほしい。
だから、碧とは結婚できない。
それが碧が病院へと向かった後、自宅に向かうタクシーの中で何度も迷った末に出した結論だ。
こみ上げる寂しさや痛みは、時が経てば消えていく。
碧の顔も声もなにもかも、そのうち忘れるに違いない。
「うちの事情って、珠希、お前気づいていたのか?」
驚き目を丸くしている父に、珠希はうなずいた。
「は? なんで、いつ……」
動転している父の姿に、珠希は自分の推測が間違っていなかったのだと確信した。
和合製薬の経営状況が芳しくないのはたしかなようだ。