エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「だって今まで私に結婚しろとか言わなかったのに、突然お見合いなんておかしいし、入籍だけでもすぐにしろとか。父さんの言葉とは思えない」
「いや、それは、急いだ方がなにかと安心だから、俺も焦って」

慌てて弁解する父に、珠希は首を横に振ってみせる。
気持ちは理解できるし、責めるつもりはない。

「珠希、俺は心配なんだ、この先――」
「いいの、わかってる」

父や母が人知れず悩んでいたことは、明らかだ。
今もふたりは珠希を案じるように目を潤ませている。父も母も、つらいのだ。
会社を立て直すためだとしても、珠希の気持ちを二の次にしてまで見合いを進めなければならなかったふたりの心情は、察するにあまりある。
珠希もできることならふたりの期待に応えたい。

「だけど、ごめんなさい。私は宗崎さんとは結婚しません」
「だったら、碧君の気持ちは――」
「大丈夫。きっと他にいい方法があるはずだから。今までなにも気づかなくてごめんなさい。私もちゃんと考えるから、宗崎さんのことはあきらめてください」

なんの関係も責任もない碧を巻き込んでまで家業を存続させても、長く続くとは思えない。
珠希はその思いを伝えるように瞳に力を込め、うなずいた。

「でもな、珠希」

決意表明にも似た珠希の言葉に耳を傾けていた父が、戸惑いながら口を開いた。

「実は珠希が帰ってくる前に、宗崎院長……碧君のお父さんから電話があったんだ」
「え、電話?」
「ああ。俺がそのことを伝えようとしても、母さんが碧君は白衣が似合うとか、好きな俳優に会えるとか騒ぎ出したから、なかなか言えなかったんだ」

珠希の父は、苦笑しながら傍らの妻を睨んだ。

「ふふ、ごめんなさい。だって、碧さんからお父様に結婚を前提に珠希とのおつき合いを続けたいって連絡があったなんて聞いたら、うれしくてうれしくて。はしゃいじゃったわ」
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