エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
とはいえ碧は医師として珠希の体調を気にかけただけで、今の仕草に深い意味はないはずだ。
男性との付き合いに慣れていないせいで、大げさに反応してしまう自分が情けない。
珠希はそっと距離を取り、気持ちを落ち着ける。

「早速だけど、お腹は空いてる?」

碧は腕時計で時間を確認し、珠希に問いかける。

「もうすぐ二時か。ランチには遅いけど、今日は朝からまだまともに食べてないんだ。できればしっかり食べられる店に行きたいけど、どうかな」
「私はどこでも大丈夫です。あの、朝から食べてないんですか?」

珠希は目を瞬かせ、碧を見つめる。

「正確には昨日の夕方コンビニのサンドイッチをコーヒーで流し込んでから、飲み物ばかりだな。固形物は食べてない」
「え。それってほぼ一日食べてないってことですよね」

食べる時間が確保できないほど、忙しいのだろうか。
予想外の答えに、珠希は耳を疑った。

「昨夜は急患が多くて緊急オペもあったから。食べてる余裕はなかったな」
「大変ですね……」

決してラクな仕事ではないとわかっていても、激務が続く碧の日常には驚きしかない。
見合いの日にも呼び出されていたし、冬のこの時期は碧が言っていた以上に脳外科は忙しいのだろう。
体調はどうなのかと気になり、珠希は碧の顔色をそっと確認する。
頬に赤みがあり表情も明るい。体調は悪くなさそうだと安心する。

「俺が選んでばかりで申し訳ないけど」

ホッと息をついた珠希に、碧は気まずげに肩をすくめた。

「ここに行きたい店があるんだけど、いいかな」

碧は背後を振り返り、目の前のホテルを指差した。




ふたりが訪れたホテルは、高級ホテルとして名高い白石ホテルだ。
名前のとおり碧が勤務している白石病院とは同系列で、国内外のVIPが頻繁に訪れている。
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