エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
碧がいずれ引き継ぐ宗崎病院は、優秀な医師と設備の充実具合で知られた信頼できる病院だ。
経営体質も盤石で、碧の結婚が病院の経営に影響するとは思えない。
だから政略的な結婚に頼る必要はなく、愛する女性の立場がどうであれ、結婚に障害はないはずだ。
なのにどうして珠希との見合いを受け結婚に前向きなのか、違和感ばかりだ。

「結婚する気配がなかった俺が、ようやくその気になったのがうれしいんだろうな。そちらのご両親とも気が合うみたいだし。そういえば、母親同士でミュージカルを見に行くとか言ってたけど」
「は、はい、そうなんです」

すでにふたりの結婚は確定事項だと納得しているかのような碧の口ぶり。
そして今さら結婚しないとは言い出せそうにない空気感に、珠希はたじろいだ。
これ以上話が進む前に気持ちを伝えなければ、困ったことになりそうだ。

「なかなかチケットが手に入らない人気の舞台らしいね。用意できたって連絡をもらって、母は飛び上がって喜んでる」
「あの……実はそのチケット、私が手配したんです」

楽しげな碧の言葉にそう答えながら、珠希はハッと気づく。
結婚しないと言いながらも、母に頼まれいそいそとチケットを用意している。
碧との縁に区切りをつけるつもりなら、母達の仲が深まるようなことはしないほうがいい。チケットを用意するなど論外だ。
自身の矛盾した行為に、珠希は肩を落とした。
けれど本当は、その理由ならわかっている。
碧と結婚するべきではないと理解していても、完全にあきらめられないからだ。
矛盾した感情がせめぎ合い、珠希は自分の気持ちの置き場を見つけられずにいる。

「母が面倒をかけて悪い。もしもほかになにか頼まれたら、これ以上甘えないように言っておくから」

碧の端正な顔が申し訳なさそうに珠希を見つめる。
碧は普段から母親に手を焼いているのかもしれない。
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