エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「珠希のお父さんの会社を建て直す手助けにもなるとなれば、俺たちふたりにとって悪い話じゃない。珠希だけにメリットがあるわけじゃないし、フィフティフィフティの関係での結婚だ」
「フィフティフィフティ……」

珠希はその言葉に鋭く反応し、大きく開いた目で碧を見つめた。
一度はあきらめた碧との結婚が現実味を帯びてきたような気がして、どうしようもなく唇が震える。

「そう。俺たちの結婚は双方にメリットがあって平等なんだ。片方が遠慮したり気負ったりする必要のない対等な関係……と言いたいところだけど、俺にとってのメリットの方が大きくて、申し訳ない気もしてる」

しゅんと肩をすくめた碧に、珠希はぶんぶんと首を横に振る。

「そ、そんなことありません。宗崎さんと結婚したら、両親は大喜びだし会社だって建て直せるし、それに第一……あ」

珠希は慌てて両手で口を押さえ、気まずげに顔を逸らした。
勢いのまま碧のことが好きだと口になりそうだったが、危ういところで回避した。

「立て直せるし……? 続きは?」

先を促す碧の笑みに、珠希は顔を真っ赤にして「なんでもないです」と声を絞り出した。
珠希にとって碧は結婚したいと思えるほど好きな相手だが、碧にしてみれば、珠希は仕事に集中するために選んだ単なる結婚相手に過ぎない。
珠希への好意はあるかも知れないが、愛情を持っているとは思えない。
それがわかっていて、碧に気持ちを伝えるわけにはいかない。
碧を困らせるに決まっているからだ。
ハードワークをいとわず仕事に向き合っている碧に、重荷になるような告白はしたくない。たとえ気持ちを伝えても根が優しい碧のことだ、珠希を傷つけないようにと気を使わせてしまう。

「すぐにでも、結婚したい」

碧はかすれた声でささやくと、珠希の額にキスを落とした。
その温かく柔らかな刺激が、不安に変わる期待となって珠希の身体に広がっていく。


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