エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「今日も指輪を選ぶとき、はしゃいでただろ? 店に連れて行こうとしたら緊張するとか心構えができてないとか言って尻込みしていたのに。いざ店に入ったら、途端に俺のことはそっちのけで店員と和気あいあいと話してるし。かなり楽しんでたよな」
「それは……はい。楽しかったです」

珠希は気まずげにうなずいた。
心当たりがありすぎて、反論できない。

「ショーケースから離れようとしないし。そんなに楽しかった?」

くっくと笑う碧に、珠希はこくりとうなずいた。

「お店に入ってすぐにあんなに大きなシャンデリアが天井から下がっているのを見て、すごくびっくりしたんです。それで、なんだか楽しくなってきちゃって……」
「あー、あれね。俺も驚いた。白石ホテルのロビーにあるシャンデリアも有名だけど、それに負けないくらいの迫力だったな」
「ですよね。キラキラしていて眩しくて。びっくりしすぎて息をするのも忘れちゃいました」

毛足が短いボルドー色のカーペットが敷かれた上品な空間に、存在感抜群のシャンデリア。まるで別世界に入り込んだようで、緊張しているのも忘れ、わくわくしてしまったのだ。

「シャンデリアを見上げてぽかんとしてると思ったら、いきなり力が抜けたみたいににっこり笑ってるし。俺の方はシャンデリアじゃなくて、珠希を見ながらぽかんとしてた」

碧は珠希をからかい、肩を震わせる。

「ごめんなさい。あんな大きなシャンデリア、初めてで、つい」
「指輪も夢中で見てたよな」

視線を向けると、碧が優しい眼差しで見つめている。
ちょうど真上に来た太陽に照らされて、碧の顔がいっそうはっきりと見える。
いつ見ても魅力的な顔を間近に感じ、珠希は視線を泳がせた。

「あれは……だって、どれもすごく綺麗で目が離せなくて。本当に素敵でした」
「感動だったな」
「はい。それはもう」

珠希は力強い声で答える。


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