エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
「あ、時間があるときにでも一曲弾いてほしいんだ。観客は俺ひとりのスペシャルステージ。それってかなりの贅沢だな」
贅沢なのは高価なエレクトーンを買ってもらえた自分の方だと珠希は口にしそうになる。
けれど、早速スマホで曲を探す碧の楽しそうな笑顔を見ているうちに、珠希は素直にうれしいと思えるようになってきた。
本当は、あのエレクトーンが欲しかったのだ。
実家にあるのはワンランク下のモデルで、近いうちに買い替えようと思っていた。おまけに珠希のそんな思いなど知らない碧からの、プレゼントだ。
偶然とはいえ、碧が珠希を理解し、この結婚がうまくいくようにと努力してくれているように思えて、珠希の心はじわじわと温かくなる。
「やっぱり一曲目はこの間のグリシーヌの曲かな……は? 珠希?」
「もちろんいいですよ。グリシーヌのクリスマスソングですよね。イベントに備えて毎日弾いてるのでお任せください」
「いや、お任せはするが……なんで泣いてる?」
「え、泣いて……?」
碧の言葉に慌てて頬に手をやると、たしかに濡れている。それも盛大に涙が流れているようで、あっという間に膝の上に水玉模様が浮かび上がる。
何度も手の甲で涙を拭うも、次々溢れる涙の勢いに追いつけない。
珠希は決まりの悪さに両手で顔を覆い、碧に背を向けた。
碧の前で涙を見せるのは、遥香の手紙を手渡されたとき以来二度目だ。
あの日は遥香の頑張りとエレクトーンへの思いに感動し、思わず泣いてしまった。
そして今は……。
あの日以上の勢いで流れる涙の理由なら、わかっている。
碧が愛しくてたまらない。
それが一番の、そして唯一の理由だ。
単にエレクトーンを買ってくれたからではなく、碧の優しさや懐の深さを知り、気持ちを奪われたからだ。
この結婚は、お互いに事情を抱えてのワケあり結婚で、決して愛情を理由にした結婚ではない。
贅沢なのは高価なエレクトーンを買ってもらえた自分の方だと珠希は口にしそうになる。
けれど、早速スマホで曲を探す碧の楽しそうな笑顔を見ているうちに、珠希は素直にうれしいと思えるようになってきた。
本当は、あのエレクトーンが欲しかったのだ。
実家にあるのはワンランク下のモデルで、近いうちに買い替えようと思っていた。おまけに珠希のそんな思いなど知らない碧からの、プレゼントだ。
偶然とはいえ、碧が珠希を理解し、この結婚がうまくいくようにと努力してくれているように思えて、珠希の心はじわじわと温かくなる。
「やっぱり一曲目はこの間のグリシーヌの曲かな……は? 珠希?」
「もちろんいいですよ。グリシーヌのクリスマスソングですよね。イベントに備えて毎日弾いてるのでお任せください」
「いや、お任せはするが……なんで泣いてる?」
「え、泣いて……?」
碧の言葉に慌てて頬に手をやると、たしかに濡れている。それも盛大に涙が流れているようで、あっという間に膝の上に水玉模様が浮かび上がる。
何度も手の甲で涙を拭うも、次々溢れる涙の勢いに追いつけない。
珠希は決まりの悪さに両手で顔を覆い、碧に背を向けた。
碧の前で涙を見せるのは、遥香の手紙を手渡されたとき以来二度目だ。
あの日は遥香の頑張りとエレクトーンへの思いに感動し、思わず泣いてしまった。
そして今は……。
あの日以上の勢いで流れる涙の理由なら、わかっている。
碧が愛しくてたまらない。
それが一番の、そして唯一の理由だ。
単にエレクトーンを買ってくれたからではなく、碧の優しさや懐の深さを知り、気持ちを奪われたからだ。
この結婚は、お互いに事情を抱えてのワケあり結婚で、決して愛情を理由にした結婚ではない。