エリート外科医との政略結婚は、離婚予定につき~この愛に溺れるわけにはいきません~
なのにここまで碧に心を配ってもらえるとは、珠希は想像していなかった。
どちらかといえば、碧よりも珠希のほうがこの結婚によるメリットは大きいはずなのに、それすらあっさり否定して、この結婚はフィフティフィフティだと笑っていた。
そして、とどめは今日のエレクトーンだ。
碧の底抜けの優しさを思い知り、珠希は碧を愛さずにいられないと、実感した。
出会ってすぐに目を奪われ、知れば知るほど惹かれていった。
そして結婚を決めたときには好きだと自覚していた。
けれど今は、そんな軽い言葉で説明できないほど碧への想いが大きくなりすぎて、どうしようもなく苦しい。
碧を心から愛している。
珠希は自覚した想いの切なさに大きくため息を吐き、頬をゴシゴシと手の甲で拭った。
その瞬間、碧の手が伸び珠希の身体を背後から抱きしめた。

「泣き顔。他で見せるなよ」

うなじにかかる碧の吐息に、珠希は身を震わせた。

「碧さん……?」

涙混じりのくぐもった声でおずおずと振り返ると、途端に唇にキスが落とされる。
珠希はとっさに離れようとするが、碧は珠希の身体を羽交い締めにして珠希の唇を何度
も甘噛みし、濡れたリップ音を響かせる。

「珠希」

荒い呼吸の合間、碧は珠希の身体を抱き上げた。

「えっ……」

気づけば碧の膝の上に横抱きにされていて、目の前には碧の端正な顔。珠希は思わず顔を
逸らした。

「……泣き顔もいいけど、驚いた顔もぐっとくるな」

碧は混乱している珠希の顔を、覗き込む。

「そ、それは私のセリフです」

目の前で蕩けそうに甘い表情を浮かべている碧の顔こそ、ぐっとくる。

「碧さん」

少しでも動けば互いの鼻が触れ合いそうな親密な距離。
自覚したばかりの碧への愛が勢いよく膨らんでいく。

「私、碧さんのことを……」

珠子の口からたまらず声が漏れる。

「どうした?」

碧は珠希の身体をそっと引き離した。

「あ、私……」
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