断片集

やがてどこからか弾むような音楽が流れ出すと、古里さんが、突如、仮面を外して席を立った。始まったらしい。
ぱちぱちぱちと、増え始める拍手。
スポットライトが、ぼくたちのいるテーブルへ向けられる。
「みんなぁー! 元気かなぁ!」
りこりーん。
ファンの皆様の声があちこちから響いてくる。
えぇ、そこに居たの!? 
というリアクションが次々に溢れる。
お前ら知ってたな? 
まぁそりゃ、なんとか仮面みたいな怪しい変装の人が一人いたら、こいつだって思うよね。
リアクションは『んんー、口の中いっぱいに広がるこの芳醇な香りぃ!』みたいな、どこか曖昧な広がりかただった。
「今日はっ、来てくれてぇ、どうも、ありがとぉ!!」
りこりーん、保育園児のあいさつみたいな喋り方で、ファンに手を振る。
あちこちにいるファンの皆様が、ヒューとかうおーとか盛り上げる。
あ。あの中に、彼女のタイプは居なさそうだ、と、なんとなく思う。
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