断片集
『やってらんねー』って気分になったぼくは、席を抜けて、船の中を見て回ることにした。
廊下を進んでいくと、客室だとか、遊ぶための部屋とかがずらりとある。
どこもキラキラしていて、庶民がずっとここに居ると、気がどうかしそうだ。
面白そうだから、目に付いたビリヤードの台6つが置いてある部屋に入る。
すぐ横にはダーツ台が5つ。
ピンボール、テーブル型のゲーム機。
そしてなぜか、その手前に、ぴこぴこハンマーで倒すもぐらたたきの機械が1つある。
「もぐらたたきか……」
ポケットにあるコインケースから、200円を投入し、ハンマーを握ってみた。
あんまり印象に残らない愉快な音楽と共に、タイトルの『モグラをたたいちゃおう☆』が点灯。(そんなお茶目な……)
次々に、畑を模したフィールドの、あちこち穴が空いている部分から、これモグラ? みたいな楕円の生き物が浮き沈みしだす。
おお。結構当たり判定が遅い。
小学生の握力では限界がありそう。
ぴこって言うより、この重さだと、ぼこぼこハンマーって感じ。
重たい音とともにモグラを叩きつけ続けると、やがて『てってれーん、おっつかれさまぁ! 頑張ったねっ!』と機械が喋り『248点っ! すごぉーい』とのことだった。
基準がわからないけど、たぶんこれは、低い方の点数だと思う。
だって、りこりーんの「みんなダイスキィ、ありがとぉー!」の喋り方に似ていた。
まぁいいや。
「うーん……盛り上がんないな」
一人で盛り上がるゲームをやる切なさは、まぁ、嫌いじゃないけどね。
部屋から出て、次に二階へ上がってみることにした。1階と2階の間を繋ぐ、中間地点のタイルは、飾りなのか、点々と色の付いたタイルが並んでいて、ダイヤやハートの形をしていた。
ゆるりと左にカーブしたゆるやかな階段を上っていると途中、話し声を聞いた。
黒いワイシャツの女の人と、女性より背の高い白いワイシャツの男の人。
それだけなら、特に気にも留めなかった。
だが、なんだか意味深に見え、その会話を遮るようにして二階に上りきるのが躊躇われ、結局、そろそろと一階に降りてきてしまう。
「どうします?」
階段のすぐ下に突っ立っていると、横顔しか見上げられない位置で、男の人のぼそぼそした話し声がする。
「一つ、欠けているのは確かね」
女の人の声。
「4、3、1、2、でしたよね」
「3が無いのよ……」
「へぇ、3ですか」
(このへぇ、は『はあ……』みたいな感じの平坦なトーンだ)
なんだろう、3って。
と思った。
思ったが、こんな数字だけで何か思いつくわけでもない。
気に留めた理由のひとつとしては、その二人はなぜか壁に貼ってある見取り図を熱心に見ていたのだけど、この理由は後でわかることになるかもしれないし、ならないかもしれない。ただ、ひとつ言えることがあるなら、あまり深読みしないで欲しい。
きっと、適当なことを言っているに過ぎないんだから。