断片集
「ぼくだって、今も、苦しくなります……叫びたくなる。何度も、悪夢に魘されました、でも」
でも。
やっぱり。
「普通が、普通になるために、諦めたくない。ここで屈したら。ただでさえ少ないぼくたちの人口が減っちゃうじゃないですか、なんか、悔しくて」
「…………」
「最近、流子さんっていう人のやっている、セラピーに、たまに通ってる友人が居るんですけど、長い間、線を認識できなかった彼女が、少し、線を辿れるようになってきています」
「どうして」
「差異が大きすぎることによって生じているのではという、説があって。全てを塗りつぶすところから、始めたそうで」
「塗りつぶすの?」
「ええ。簡単に言うと、全てを『地』と捉えてしまうということが大きく関わっているみたいで」
「なるほど」
「それで、よく、わかんないですけど、線も含めて、紙を全て塗りつぶして、そこにある線だけを、そこから探し当てる、そういう『逆』の過程を辿ることから、だんだんと、色数を減らしていく実験を行っているそうです」
「ああ、段階を積むのね?」
「ええ。あと、写真から、線を抜き出すという作業を繰り返すらしくて」
「なんだか、よくわからないけど、詳しいね」
「友人に聞きました。まぁ、その友人の発案なんですけどね。同じ症状で混乱していた子どもの研究に役立てて欲しいと、自ら手伝っています。試験のマークシートとか、苦痛ですからね……」
きっと、
代わりのものを。
失ってしまうのだろうけど。