断片集
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母さんが、男に近づいていって、そして手を捻る。
手から何か袋に入った小麦粉のようなものがどさどさと零れてきた。
なんだろ。
ぼくは気にせずつづける。めんどくさい。
「なんらかの理由で剥がれたタイルがあります。それは、彼らの目印に無くてはならないものだった。3階のタイルです」
男の細まった目が、こちらをじっと見ている。
3がない、とはそういうことだったのだ。
「それがあったのは、ディナーショーの会場」
「………………」
「恐らく、誰かが後で貼り直すべく、一旦、人の踏まないような場所に運んだのでしょう」
「それは私。リハで3階まで行ったとき、剥がれてて危なかったから。持ってきて、そしたら本番になってしまったものだから、つい一旦足元に置いていたの」
古里さんが手を上げる。
足元にはスピーカーがあるので、タイルは観客には見えないし、カメラにも特に映らないのでいいと思ったらしい。
と、彼女が話している、そのときだった。