断片集

「きみは、案外自分が傷付いているかどうかってことしか考えてないんだね。命に関わるから、仕方がないとは、思うけど」
「…………そんなこと、ない」
「うん。知っている」
ぼくが頷くと、そいつは、少し目を見開いた。驚いているらしい。
「でも、なんだか、ぼくもある日、気付いたら心がね、こう、ぱきっと。アイスみたいに、根元から折れちゃったんだ!」
そうならないように、出来るだけ明るく言ったのに。
滅多に笑わないぼくが、久しぶりに、笑顔を作ってまで伝えているのに。
そいつはどこか、困った顔をした。
「立ち直れないって思う。でもいつか治るかな? こんな話をして、ごめんね……もう、傷付きたくないんだ。勝手に傷付いてごめん。怒る?」
「…………」
ただの世界への八つ当たりだよ。
ぼくにとっての醜い、早く消して終わらせてしまいたい世界を、きみは綺麗だ、なんていったから、つい、勿体なくなりそうでさ。申し訳なくなってしまったんだよ。
だって、苦しかったから。
関係なかった。なのに、嫌われていると思わせてしまったのだろうか。
そう思ったときに思った。いっそのこと、それでもいいかもしれない。
そうしたら、放って置いてくれる。ぼくが、傷付いているよ、なんてことを、言わなくって済むよね。自分の痛みよりも、他人の痛みに傷付くようなやつに、聞かせられないじゃない。でも、とうとう聞かせてしまったな。ぼくが、こんなことを言わず、悪役で居ればきっと平穏に済んだんだ……でも。「それを知られたくなくて、逃げようと思った」
きっと、悲しい顔をするだろう。最初から表でしかないのに、きみは裏ばかり探していたみたいで、「きみは、優しいから誰かが庇ってくれると思う」
「…………」「でも、ぼくは、誰も助けてくれないからさ、自分で感情を制御するしか無かった。でもちょっと、やり方を間違えちゃったみたい。もう、諦めるね。何もかもを。眠りたいし、遠くに行きたいんだ。今なら、飛べそうな気がするし」
「それって」そいつは、戸惑ったような顔をした。ぼくは笑った。笑ってそいつの手を両手で握った。本当は、それでも、嬉しかったんだと思う。ぼくの気持ちを、気にしてくれた人は、今まで居なかったから、やっと生きた心地がしたんだと思う。だから結構、幸せだった。今まではなんだったのかと、逆に悲しくなるくらいに、楽しかった。もうそれは味わえないなって、少し寂しいけど、でも。
「そうだな、今度、ずっと行きたかった場所に、行ってくるよ」
そう笑って、言うと、そいつはなぜか泣きそうになった。
「どこに?」「お前には教えない。付いてくるなよ?」
「なんだ、それ…………」
「うふふ。生まれ変わったときは、ヒトを好きになりたいな」
「どう、して――」
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