断片集
だんだん好奇の目で、その子は聞いてくるようになった。
「どんな感じ?」「どうしてそうなの?」「もっと知りたい」「ねぇもっと面白いことは?」「面白い」
それは、悪くない。なのに孤独なぼくには、まるで詰問のように思えた。
何が面白いのかはわからない。けれど、まぁ楽しいに越したこともないだろう、と気にしないことにした。
看護師さんは「それくらい」と言ったが、ぼくからしたら年齢や体重をずかずか聞いてくるようなものに思えて「それくらい」どころではなかったりする。
次の日、ぼくはできるだけ柔らかくなるように気をつけて、言った。
「ぼくだけの言葉じゃ、だめだよ。正しいことなんてわからないからさ」その子は人気者で、クラスの中心だった。きっと、わかってくれて、もっと伝えてくれるんじゃないかな。そしたら×××たちも喜ぶなぁって、そう思った。もっと×××たちのことを好きになってくれるかもしれない。×××を気に入ってくれたらいいな。×××が好きなひとは好きだ。ぼくも嬉しい。
「せっかく見本がいるのに」
でも、その日、その子は面倒そうに息を吐いた。
ぼくは、あの子達がとっても大事で心から大切にしたい。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい傷付いてごめんなさい。
悪気のない「興味」の言葉たちに、次第にぼくの中の何かは抉れていくみたいだ。
どうしよう、誰も悪くないのに。
ひどく不安で、恐ろしい気持ちで胸がいっぱいになる。
どうしよう。どうしたら、これが伝わるんだろう……伝わらないのかな。今にも暴れそうな心臓をどうにか押さえつけて、ぼくは、ぎりぎり笑う。よくあることなんだ。取り乱しては、だめだ。この子は悪くない。思い切って違う話をしてみた。自虐を楽しく交えて、あとついでに、昔あった事のある、その子とは違う人物のことを思い出しながら、これまでとは無関係な話をしてみよう、とそう閃いた。ああ、自分とは関係ない、誰かの話なんだな、って思ってくれると思って、普通やるかー?ってくらいに酷く自虐的な話をしておいた、そのつもりだった。怒られてしまった……ちがう、こうじゃない。なんで逆の感じになるんだろう。うーん、でも、やっぱり《面白い》とかそういう感じじゃぼくの中では、無いんだ。「誤解となってしまうかもしれない。ぼくだけの感覚だけを参考にしたり、肯定だけしていては、違う例が見過ごされてしまう、個人差がすごく大きいから」
必死に説明する。その子は笑ってくれた。「興味深いね、もっと聞きたいな、面白いな」
心臓が、ばくんばくんと、だんだん早い音を立てている。その子は好きだけど、でも、でも……。なんだかこわくなる。「勝手にしてよ、面白がっても構わないけど、でもぼくからはもう話さない」ついに耐え切れなくてぼくは言った。意見が違うのだし、関わらなければいいのだ。その子の時間を奪っているみたいで申し訳ないし、ぼくは泣いてしまいそうだった。その子は怒っている。