冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
どうしたら大人の女として見てもらえるのだろうか。悔しい思いと一緒に優からもらった防犯ブザーを握りしめながら広報部に戻ると部内はなんだかざわついていた。
「桜庭さん、なかなか戻ってこなくない? 入社早々何かやらかしちゃったとか?」
「まさか、社長と知り合いとかじゃないよね? そしたら大変なことになりそう」
凛子が麗奈に連れて行かれたことで部内は凛子の話で盛り上がっているようだ。
(こ、この中を戻れっていう、の?)
陰口、悪口に言い慣れているとはいえ、言われている現場に乱入したことはない。けれど戻らないと仕事にならないので凛子は歩くペースを緩めることなく、自分のデスクにたどり着いた。
「凛子、お帰り。急に呼び出されたから心配したよ」
希がマイボトルに口をつけながら凛子を見る。本当に心配してたのか? と思わせる態度だが、こうしてサッパリしている希の性格を凛子は入社前の新人研修の時から気に入っている。
「ちょっと社長に呼び出されただけで、なんにもなかったから大丈夫だよ」
社長、というワードに明らかに反応した先輩女子社員の人たちが寄ってたかって凛子のデスクを囲んだ。