冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
社長室と書かれたプレートのある扉の前で凛子は足を止めた。中からは優と一樹の声が微かに聞こえてくる。
(あ、もしかしてまだ仕事中だったかな? 社長だもん、お昼の時間はバラバラだよね)
どうしようか悩み、立ち止まっている凛子の耳に優と一樹の会話が聞こえてくる。
『優、お前この前お見合いした山田物産の令嬢にえらいきにいられてるみたいじゃん。どうすんの? 他にもたくさん見合い話しきてるし』
『仕方なく一度会ったまでだ。次はない』
『でも、そろそろ身をかためないと、次から次へとお見合いが申し込まれてくるぞ』
『そうだな。俺もそろそろ結婚のことを考えて、動き出さないとな』
一枚の扉ごしに聞こえる優と一樹の会話に凛子の身体はドッドッドッと大きく動く心臓の動きに押しつぶされそうになっていた。
――優ちゃんが結婚?
優がお見合いをしていることも知らなかった凛子は驚きを隠せない。鞄を持つ手が小刻みに震えている。
『この写真の女なんて優のタイプじゃん? 黒髪清楚な美人系』
黒髪、清楚、美人。自分と全く正反対の女性のタイプに凛子はこれ以上この会話を聞くことができない、と走り出した。会社の廊下を全力で走る。こみあがる負の感情を振り払いたくても湧き上がる力が強すぎた。凛子の瞳はみるみる湖のようになっていく。
優のタイプなんて全く知らなかった。今までたくさんモテてきた人生なのに女の影は全く無く、一番近い存在の女は自分だと、どこか安心していたのかもしれない。まさか凛子のことを応援してくれていた一樹の口から優の好みを聞くなんて思ってもいなかった。どうしてもっと早く教えてくれなかったのだろう。そしたら一生懸命髪も伸ばしたし、嫌いな牛乳を飲んで身長を伸ばしたし、服装だって清楚なワンピースを毎日着たのに。