冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

「桜庭さん?」


 聞き覚えのない、男性の声。頭上から名前を呼ばれ凛子は恐る恐るタオルで隠れていた顔を目元だけひょこりと出した。


「あ……」


 誰だっけ? 


 クルクルパーマのお洒落な丸渕眼鏡をかけている男性、確か同期だったはずだ。でも名前が思い出せない。


「大丈夫?」


 同期が凛子の顔を心配そうに覗き込む。
 凛子は慌ててタオルで顔の涙を拭き取り「大丈夫です」と笑って見せた。ハリボテのような偽の笑顔で。


「本当? 桜庭さん可愛いからこんな所で泣いてなら他の男から話しかけられちゃうよ」


 ニコッと笑った同期はさりげなく凛子の隣に座り距離を詰めた。


「あ、あの、本当に大丈夫です。お見苦しいところをお見せしちゃってすいません」


 優以外の男性がほんの少し肩を動かすと触れてしまう距離にいる。それがものすごく嫌だった。 


 凛子は座り直しながら同期との距離をひと一人分空ける。

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