冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い

「それ、お弁当? 落としちゃったの?」


 同期が指差すお弁当はもちろん凛子の膝の上にあるぐちゃぐちゃなお弁当だ。凛子はみずほらしいお弁当を見られて恥ずかしくなり慌てて蓋を閉めた。

「ははっ、落としてぐちゃぐちゃになっちゃいました。あの、ご心配おかけしました。失礼します」


 お弁当を持ち、鞄を胸に抱き締め同期に軽く頭を下げた。


「待って」


 ぎゅっと同期が凛子の腕を取る。じっと熱のある瞳で見つめられ、なんだかよくない雰囲気を凛子は感じ取った。


「あ、あの、私トイレに行きたくて……」
「桜庭さん、俺、面接の時から桜庭さんのこ
と見かけててずっと気になってたんだ」


 掴まれている腕が少し痛い。


「もしよかったら俺と付き合ってくれない?」


 掴まれていた腕をぎゅっと引き寄せられ、身体のバランスを崩した凛子は同期に抱きしめられた。


 ――嫌だ。


 優以外の人に触れられるのも、抱きしめられるのも、全部嫌だ。

< 20 / 52 >

この作品をシェア

pagetop