冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
「優ちゃん」
凛子は一歩踏み出し、かかとを上げて背伸びをした。優の肩に両手を置き、そっと瞳を閉じる。緊張で震える唇が優の温かい熱気を感じとる。後少し、後少しで女として意識してもらえる。そう思った瞬間、優の気配がさっと消えた。
――あ。
「凛子、今日は突然お仕掛けて悪かったな。じゃあまた明日」
優はそっと凛子の手をどけ、また、何もなかったかのように笑った。
「ははっ、うん。また明日ね」
少しでも女として見られたくて出した勇気を呆気なく避けられた。
「戸締まりちゃんとするんだぞ?」
「そんな、子供じゃないんだから」
「俺にとっては凛子は大事な女の子なんだよ」
ズキンと身体全体が痛んだ。あぁ、泣きそうだ。大事な女の子であって、女ではない。凛子はぎゅっと足の指に力を入れてなんとかその場に踏ん張った。
「はいはい。じゃあ、また明日ね!」
バタンと玄関ドアが閉まった瞬間、気がどっと抜けたように凛子はその場に崩れ落ちた。