冷徹社長は幼馴染の私にだけ甘い
「貴女が桜庭凛子さん?」
凛子の背中に突き刺さるような女性の声が凛子の名前を呼んだ。自分の名前を呼ばれ、ハッと振り返ると入社式で社長の第二秘書と紹介されていた望月麗奈(もちづきれいな)がジロリと凛子を頭の先から爪先まで値踏みするように睨みつけていた。
麗奈は一言で言うと美人だ。綺麗な黒髪が丁寧に巻かれていて、キリッとした瞳。真っ赤なリップが良く似合う。すらっとした長身でスタイルの良さがスーツ姿でより、際立っていた。
「わ、私が桜庭ですが……」
自分とまるで正反対の麗奈に怖気つきながら凛子は小さく手をあげた。
「来て。社長が呼んでるわ」
「しゃ、社長がですか? どうして――」
麗奈は凛子の話を最後まで聞かずにコツコツと高いヒールの音を鳴らしながら歩き始めた。あんな高いヒールでよく転ばないなぁ、と思いつつ、凛子も慌てて長い脚の麗奈を追いかける。
「ったく、どうしてこんなチンチクリン」
チッと舌打ちをした麗奈は悪態をついている。凛子はぎょっと麗奈を見た。
(ち、チンチクリンって私のこと!? そ、そりゃあ身長も低いし、美人でもなんでもないけど……でも、別にこれくらいの悪口へでもないもんね!)
凛子は口を尖らせながら麗奈の後をズンズンと大股でついていく。